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□vistaU
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「より子早く!!」
「む、むぐ」
子ども達の後を追いながら口の中のパンを飲み込む。
「キコ、こっちだよ!」
角を曲がって着いた部屋は壁を楽器で覆われ、とても狭かった。
奥に置いてあったピアノを奏でていたピアニストが突然の訪問者に指が止まる。
「サム!ほら早く行くよ!!」
「えーっと…。あ、これ弾ける?」
わけがわからずピオに髪を引かれて立ち上がると、サムはジャコが差し出したアコーディオンを持った。
「……っ!?」
アコーディオンの重さに体ごと床に落ちた。
「…お、重いみたいだね」
より子がサムの代弁をすると部屋を見回す。
そして、床に置かれた箱を見つけた。
見慣れたその箱を開けるとやはり小さなピアノが入っていた。
「こ、これなんかどうかな?」
おずおずとサムにピアニカを差し出す。
片手で本体を持ち、もう一方の手で鍵盤を叩く。
「……?」
「なんだ。音出ないじゃん!」
「あ、えっとこのホースで息を入れてみて…」
言われた通り、ホースをくわえて息を思い切り吹き、鍵盤を叩く。
「ぴぃぃ゛っ」
「うぁっ!!?」
「いったぁ…」
悲鳴のような音に全員が耳をふさいだ。
「やっぱり壊れてるじゃん!」
「だ、大丈夫。息の量を調節してみてください…」
一度頷くと今度は恐る恐る息を送る。
「フィ〜…」
しばらく慣れない楽器に息を送る。
「だ、大丈夫…?」
不安そうに訪ねたより子にサムは頷いた。
そして、それを証明するように軽やかに端から端までを奏でて見せた。
「じゃあ行こうぜ!!」
キコ、ジャコ、ピオが二人の腕を掴み走り出す。
視線で状況説明を求めるサムにより子が言った。
「これから宣伝に行くんです…」
風を切って走る5人はステージを通り抜け、メインゲートを潜り異世界の光の下へと飛び出して行った。
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