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□siestaT
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「おき…な…い」
誰かの声がする。
自分に向けられてはいない目覚めの言葉に僕の意識は明確になっていく。
「起きろっつってんだろがぁ!!」
「……っ!?」
大声に跳ね起きると聞き慣れた音達が不協和音を奏でた。
ついでに座り慣れた椅子からも転げ落ち、後頭部に鈍い痛みが走る。
この体に入ってから痛いことばかりだ。
「お…び、びっくりさせんなよ」
そう言ったのは、鳥の様な団員だった。
「あ。お前さ、ピエロだよな」
甲高い声で言う彼に僕は頷いた。
「団長にこいつ寝てたら起こしてやれって言われたんだけどさ、お前やっといてくれ」
翼が示す方を見るとピアノにもたれて寝ている女の子がいた。
頭は黒い髪があちこち跳ねている彼女の名前がより子だと思い出すまでに時間がかかった。
「…嫌なのか。頼むって。俺二日酔いだし、眠いし…。ってかこういうのは普通ピエロの仕事だしな。うん。じゃあ頼んだ」
自分の中で結論を出すと、団員は出て行ってしまった。
呼び止めようにも声が無いことを思い出し、あきらめた。
彼女の肩を揺すってみると、眉間に皺を寄せて薄く目を開けた。
睨みつける様な彼女の目にステージ前のことを思い出し、身構える。
しかし、細めた瞳に涙が浮かんだことに気付き、首をかしげると小さな声で言った。
「…き、きもち…悪い」
ごめん、と頭を下げると彼女は首を横に振った。
「…吐きそ…」
そう言うと口を強く押さえた。
そういえば、仄かに酒気がする。
きっと二日酔いだろう。
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