vista
□vista?
3ページ/23ページ
「食事中に失礼。諸君、少しだけ耳を貸して戴きたい」
朗々とした声に誰もが彼を見た。
広い食堂の二階席の欄干に団長が立っていた。
一階席とニ階席から食事をしながら見やる者達は全てが異形だった。
「この世界の許可がなんとか降りた。しかし、ここは戦争中らしくてね。宣伝には条件が提示されたんだ」
懐から四枚のプレートが取り出される。鉄でできたそれには竜を模した絵が黒く描かれていた。
「四枚のカード。これを持つ者。つまり四人しか宣伝に行けないんだ。で、早い者勝ちということで――」
「やったぁ!ピオいっちばーん!!」
話を遮ったのは小さな女の子だった。
比喩ではなく本当に小さい。体長10cm程の体は大きな羽をパタつかせ、彼女はプレートにしがみついていた。
「あぁぁ!オイラも!」
「オレも行きたい」
階段を駆け上がって来たのは、赤い肌に一対の小さな角を持つ少年と白銀の鱗に覆われた少年だった。
「慌てなくても君達なら絶対行くと思って、三人で一人分という無理なお願いをしておいたからね」
団長が優しく言うと子供達ははしゃぎながら食事に戻って行った。
「さぁ、あと三枚だよ」
「いや、あと二枚です」
真ん中のプレートが一枚浮かび上がると食堂の端の席にいた金髪の下へと向かって行った。掴んだプレートを垂れた目がつまらなそうに眺める。
「君が行くなんて珍しいな」
「新しい知識の調達に行くだけです」
「じゃああと二枚だね。誰かいるかな」
誰も名乗りを挙げず、空しくプレートが振られる。
「はぁ。じゃぁ仕方ないね。私の方で決めさせて貰うよ」
団長の体が闇に包まれて消えたあとすぐに現われた場所は先ほどの場所から離れた一階席のテーブルの前だった。
そこに座る黒髪の二人にプレートを差し出した。
「より子君とサム君。いってらっしゃい」
十代半ばかそれ以上の人間の少女と青年は、嫌々ながらもそれを受け取った。
「さて、まだ条件はあってね。プレートを持つ者には向こうの軍人が監視に一人ずつ着くんだ」
「ぐ、軍人…」
少女が怯えたように呟く。隣りに座る青年も真剣な眼差しでプレートを見ている。
「大丈夫だよ。監視と行っても案内のようなものだから。でも、喧嘩を吹っ掛けたりしちゃダメだよ。ジャック君」
「なんで名指しなんですか?」
「それじゃあ、しっかり宣伝して来てくれたまえ」
大小のモニターが並ぶ機械的な室内に機械の駆動音が響いた。
青い髪の青年が慣れた手付きでレバーやスイッチをいじり、イヤホンマイクへと声を発した。
「連絡。本日、異国のサーカスがドラーグドへ入ることが許可された。目的は宣伝活動。プレートを持つ4名に対しての戦闘行為は無しとする。
選抜された監視・護衛用人は城門前で待機し、サーカスを待て。以上」
マイクのスイッチを切り、また機械をいじり始めた青年の背後で金髪の男が笑っていた。
「楽しみだなぁ♪嵐(アラシ)君もそう思うでしょ?」
「俺はサーカスより大将が選んだ監視と向こうの反応が楽しみですよ」
大将と呼ばれた金髪が楽しそうにクスクスと笑った。
「ちゃんと『信頼できる実力者』ってことで頼んだんだけど…。僕もここで様子を見ようかな」
「大丈夫ですよ〜、っとあったあった」
機械の下から漁り取り出されたのは一枚のディスク。
「これに保存しときますんで」
「後で鑑賞会だね♪」
黒く楽しげな笑いが起こった。