vista

□vistaT
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サーカスは、嫌いだ。
人間が見せ物になり、火の輪の中をくぐりぬけたり、剣を丸々飲み込んだりする光景を見て、何が楽しいのだろう。
とにかく生理的に受け付けないし、なによりも、怖いのだ。
現実世界とは隔たれ、閉ざされたあのテントの中に響く大きな音、驚かされて楽しむ客席の人、ヒト。
それら全てに嫌悪感を感じてしまう。
「夢を見せる究極のショー」なんて、よく言えたものだ。あのテントは、私が嫌いな物しか詰まっていない。
私はサーカスは嫌いだ。



その日、より子は巨大なテントの中にいた。

大嫌いな、サーカスのショーをするためのテントに。



800席を超える客席が中央の円形のステージを取り囲むように、ぐるりと設置されている。
軽快な音楽が鳴り響き、ステージの上では、1人の美女が口から盛大に炎を吹いていた。
その周りでは音楽に合わせて数人のダンサーが舞い踊る。
客席は歓声と拍手で溢れかえっていた。
その中に、より子はいた。
腰まである長い髪の毛は、柔らかい黒をしており、光の加減で少し茶色く見える。
今は耳を両手でふさぎ、茶色がかった目をぎゅっと堅く閉じている。

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