vista

□vistaT
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薄く目を開けると、熱気と興奮で頬を赤く染めた久美と目があった。
先程のショーは終わったのだろう。ステージでは、次の演目の準備をしている。
久美は高揚した顔を近づけ、こう言った。
「どうしたの?真っ青だけど…」
なにを今更、と内心毒づきながら、やっと自分の異変に気付いた久美に、
「だから、嫌いなんだって。もう帰ろうよ」
と、精一杯の抗議をする。
「いい加減諦めなよ。ほら、次で終わりだからさ」
何食わぬ顔で言う久美に、より子が言い返そうとすると、突然辺りが真っ暗になった。
次の瞬間、暗闇に包まれたステージの中心にスポットライトがあたる。
びっくりして目を閉じる事を忘れてしまったより子の目は、必然的にライトの照らされたステージを捕える。
そこには黒いシルクハットと燕尾服に身を包んだ男性が立っていた。
透けるような白い肌、金髪、そして高い座席から離れて見ても分かる、整った顔つき。
綺麗な人。誰もがそう思うだろう。
その人の後方にももう一つライトがあたる。
首と四肢を5本の太い鎖に繋がれた狼がいた。
いや、正確に言うと、狼とは、少し違っていた。
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