vista

□siestaT
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ため息をついてより子に手を差し出す。
口を押さえた手と逆の手が重なった。
立つのを手伝い、取りあえず肩を貸して歩き始める。
早く彼女を部屋に連れて行きたい。
より子が苦しそうだし、ピアノが弾きたい。
長い廊下に人影はいなかった。
新たな世界に到達していないvistaの窓は閉めきられていているが、人工の光が灯り、明るい。
苦しそうな呼吸音と足音が響いた。
数歩進む事により子を支え直しながら進む。
変なところに筋肉が着かなければいいな、と思いながら廊下を左に曲がった所で気が付いた。
より子の部屋を僕は知らない。
慌ててより子を見ると僕の顔色を察してくれた返事をした。
「…私、まだ道わからなくて…」
そうだ。
この子も僕も来たばかりだ。
僕は地下にいたけど、上のvistaはまだ知らない所がある。
楽器庫だってロマンダさんに教わってきたし。
進む先が当たりなのかわからなくて、僕は足を止めた。
当然、より子も足を止める。
誰かいないかと辺りを見回すが誰も見当たらない。
地下に戻ったみたいだ。
「と、とりあえず…。…行ってみませんか…?」
か細い声が聞こえた。
進むか戻るかなのだが、とりあえず進む方なのだろう。
他に良い案も浮かばず、僕は頷いた。
黙々と歩き続ける。
しばらくして彼女が行った。
「…すみません」
小さな声なのにはっきりと聞こえた。
目線だけ動かすと下を向いた彼女がいた。
間近に見える彼女の顔に二日酔いの苦しさと別の苦しさが同居していた。
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