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□siestaT
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また視線を前に戻すと言葉が続く。
「…本当は…ピアノ弾きたいのに……」
それだけ言うと更に頭が下に向いたのを肩の重圧で感じた。
しかし、重圧は僕事廊下に崩す。
どうやら、吐き気の波が来たらしい。
横でどうしようと慌てていると、ヒタヒタと足音が聞こえた。
先にある角から顔を出したのは白銀の鱗に覆われた男の子だった。
紙袋を抱えた男の子と僕の目が合う。
「あれ。サムじゃん。つかより子どうしたの?」
僕の名前を知ってる男の子が近付いてくる。
名前を知ってるいるかもあやふやで記憶をたどると、相手の方が教えてくれた。
「ジャコだよ」
むすっとした顔で言われ、頭を下げる。
前に会った子供達のことをぼんやりだが思い出した。
「別にいいけど。何してんの?もしかして、より子も二日酔い?」
震えるように頭を下げたより子にジャコがしゃがんで目線を合わせる。
「…飲んだ覚え、ないん、だけど」
「みんなそうなんだ。キコもなんだ」
そう言って、紙袋を漁り始める。
「あいつバカだからさ。『鬼殺し』なんて最悪な名前の酒飲んじゃってさ。あ、ピオは爆発に巻き込まれてマッドんとこ」
爆発なんてあったのか。
そんなことをあっさり言う彼に身の危険を感じる。
ジャコは紙袋から黒い液体の入った小瓶を出したがまたしまった。
「ごめん。これ鬼用だ。ってかマッドんとこ行くの?」
僕が首を振るとより子が声を絞り出してくれた。
「…部屋に…行きたいんだけど、わからな…」
「部屋はここ真直ぐ行って、階段一個降りたら右手の5番目だよ。下行ったら誰かはいるし、大丈夫だから。んじゃ」
そう言って僕らが来た道を行こうとして戻って来たジャコは僕の耳元に口を寄せた。
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