◆突発◆

□突発
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「お前って本当に……」

そう言って溜め息をつくあの人をもう何度見つめただろう。

呆れたと言わんばかりの辛辣な態度、言葉、視線。




それでもオレはその人から目が話せなくて…───





『notice my heart』






「はぁ…、今日も怒られたってばよ」

オレはベランダで月を眺めながら溜め息をついた。

空を見上げれば真ん丸い月と煌めく星々。

いくら眺めても飽きない…と言いたいところだけど、今日はそんな気分じゃない。

だって今日は、

いや“今日は”じゃない、“今日も”オレってばカカシ先生に怒られた。

任務の手際が悪いとか、ちゃんと最後まで終わってないとか、作業が雑だとか、もしかしたら任務のたびに怒られてるかも。

いつもの事、なんて言えばそれまでだけど。

いつもの事だとしても、そのたびにオレってばそれなりに落ち込んでるんだったば。

何で出来ないんだろうって悔しいし。

カカシ先生に怒られるのは悲しい。

すごく、悲しい。


だってオレってばカカシ先生の事好きなんだ。

でも今のままじゃ好かれるどころか、呆れて見捨てられそうな勢いだってばよ。

サクラちゃんはちゃんと丁寧に、手際よく、テキパキ済ませる。

サスケだって素早く、しっかりと、どんどん済ませる。

その横でオレだけがもたもたしてる。

それを見てカカシ先生はいつも溜め息をつくんだ。



にゃ〜

ふと猫の鳴き声が聞こえたと思ったら、足元に灰色の猫が寄ってきていた。

最近ここでこうして夜に空を眺めてると現れる猫だ。

野良なのか首輪はない。

「こんばんは」

にゃ〜

こんな感じで声をかければ返事をする、愛想の良い猫だ。エサをねだっているだけかもしれないけれど、足にまとわりつくように擦り寄っても来る。

それなりに人馴れした猫だ。

頭を撫でても嫌がらないのが良い証拠だろう。

しかも野良の割りに毛並みも良いから触り心地が良い。だから時々抱いたまま寝たりもする。

朝にはいなくなっているけれど。



オレがその場にしゃがみこむと、するりと膝の上に乗ってきた。

その柔らかい感触をそっと抱きしめる。

「今日もカカシ先生に怒られたってばよ」

猫がきょろっとオレの顔を見上げる。

「またオレってば失敗しちゃったし」

「三代目のじーちゃんも、受付にいたイルカ先生も怒ってた。オレってばカカシ先生に頭下げさせちゃったし…」

「嫌われたかなぁ」

猫がぺろりとオレの鼻の頭を舐める。ザラリとした舌の感触は決して気持ちの良いものではないけれど。

「慰めてくれてんのか?」

ただじゃれてるだけなのかもしれない。

でも、オレがこうして愚痴をこぼすと、この猫はオレを慰めるように舐める。

猫の気持ちは分からない。

だけど、それをオレが優しいと思えば、それはオレを慰める行為なのだ。

「どうしたら良いのかなぁ…」

にゃ〜

慰めるように鳴く猫。

でもオレにはその声の、言葉の意味はわかんないってばよ。

分かったら、オレはその助言に耳を貸すのだろうか。そう思ったらなんだかちょっとおかしかった。

だって本当に猫の言う事だって聞きそうだと思う。

カカシ先生に嫌われないためなら、

カカシ先生に好かれるためなら、

みっともなくたって何にでもすがれそうだってばよ。


オレはちょっと強く猫を抱きしめる。

猫が腕の中で身じろぐのが分かった。

でも、離さなかった。


「カカシ先生が、オレを好きになってくれれば良いのに…」




まるで気の遠くなるような、途方もない願いだって分かってる。

火影になるより難しい事だって気付いてる。


それでも、願う。




だって、オレは好き…なんだ──

+++++++++

08.05.14
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