◆突発◆
□突発
10ページ/39ページ
「お前って本当に……」
そう言って溜め息をつくあの人をもう何度見つめただろう。
呆れたと言わんばかりの辛辣な態度、言葉、視線。
それでもオレはその人から目が話せなくて…───
『notice my heart』
「はぁ…、今日も怒られたってばよ」
オレはベランダで月を眺めながら溜め息をついた。
空を見上げれば真ん丸い月と煌めく星々。
いくら眺めても飽きない…と言いたいところだけど、今日はそんな気分じゃない。
だって今日は、
いや“今日は”じゃない、“今日も”オレってばカカシ先生に怒られた。
任務の手際が悪いとか、ちゃんと最後まで終わってないとか、作業が雑だとか、もしかしたら任務のたびに怒られてるかも。
いつもの事、なんて言えばそれまでだけど。
いつもの事だとしても、そのたびにオレってばそれなりに落ち込んでるんだったば。
何で出来ないんだろうって悔しいし。
カカシ先生に怒られるのは悲しい。
すごく、悲しい。
だってオレってばカカシ先生の事好きなんだ。
でも今のままじゃ好かれるどころか、呆れて見捨てられそうな勢いだってばよ。
サクラちゃんはちゃんと丁寧に、手際よく、テキパキ済ませる。
サスケだって素早く、しっかりと、どんどん済ませる。
その横でオレだけがもたもたしてる。
それを見てカカシ先生はいつも溜め息をつくんだ。
にゃ〜
ふと猫の鳴き声が聞こえたと思ったら、足元に灰色の猫が寄ってきていた。
最近ここでこうして夜に空を眺めてると現れる猫だ。
野良なのか首輪はない。
「こんばんは」
にゃ〜
こんな感じで声をかければ返事をする、愛想の良い猫だ。エサをねだっているだけかもしれないけれど、足にまとわりつくように擦り寄っても来る。
それなりに人馴れした猫だ。
頭を撫でても嫌がらないのが良い証拠だろう。
しかも野良の割りに毛並みも良いから触り心地が良い。だから時々抱いたまま寝たりもする。
朝にはいなくなっているけれど。
オレがその場にしゃがみこむと、するりと膝の上に乗ってきた。
その柔らかい感触をそっと抱きしめる。
「今日もカカシ先生に怒られたってばよ」
猫がきょろっとオレの顔を見上げる。
「またオレってば失敗しちゃったし」
「三代目のじーちゃんも、受付にいたイルカ先生も怒ってた。オレってばカカシ先生に頭下げさせちゃったし…」
「嫌われたかなぁ」
猫がぺろりとオレの鼻の頭を舐める。ザラリとした舌の感触は決して気持ちの良いものではないけれど。
「慰めてくれてんのか?」
ただじゃれてるだけなのかもしれない。
でも、オレがこうして愚痴をこぼすと、この猫はオレを慰めるように舐める。
猫の気持ちは分からない。
だけど、それをオレが優しいと思えば、それはオレを慰める行為なのだ。
「どうしたら良いのかなぁ…」
にゃ〜
慰めるように鳴く猫。
でもオレにはその声の、言葉の意味はわかんないってばよ。
分かったら、オレはその助言に耳を貸すのだろうか。そう思ったらなんだかちょっとおかしかった。
だって本当に猫の言う事だって聞きそうだと思う。
カカシ先生に嫌われないためなら、
カカシ先生に好かれるためなら、
みっともなくたって何にでもすがれそうだってばよ。
オレはちょっと強く猫を抱きしめる。
猫が腕の中で身じろぐのが分かった。
でも、離さなかった。
「カカシ先生が、オレを好きになってくれれば良いのに…」
まるで気の遠くなるような、途方もない願いだって分かってる。
火影になるより難しい事だって気付いてる。
それでも、願う。
だって、オレは好き…なんだ──
+++++++++
08.05.14