◆突発◆

□突発
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散歩はいつもの日課だ。

家を中心にその日の気分で東西南北どれかの方角に向かって走る。

その日ナルトの家の近くを通ったのは本当に偶然で、でも本当に通って良かったと思う。と言うよりも、もし通っていなかったらと想像する方が怖い。

なぜなら、オレがそこを通った時、ナルトが空から降ってきたのだ。





『moonlit running』






「……で、何であんな事になったのか説明しろ、ウスラトンカチ」

「あ〜…えと、アハハハハ…」

道の真ん中で仁王立ちするオレの前に、正座で申し訳なさそうに苦笑するナルト。

二人ともちょっと泥まみれだ。

と言うのも、オレは落ちてきたナルトを受け止め損ねた。腕のチャクラの練り方が足りなかったのか、それとも足か、どちらにせよ受け止めはしたもののバランスを崩して二人とも倒れこんだのだ。

もちろんお互いこの程度で怪我するようなへまはしないが。

もし通りがかったのがオレじゃなくて一般人だったらと思えば、お説教の一回くらいしてやっても罰は当たるまい。

これが任務の最中ならこれはカカシの役目だろうが、今はそうもいかない。

誰かに怪我でもさせていたらただでは済まないだろう。ましてやオレ達は一人前の忍を目指す身だ。

人を守るべきオレ達が人を傷つけていたのでは話にならない。

やはりここは少々厳しく言っておくか。

「大体オレだったから良かったものの…」

言いかけた所でどこからともなく灰色の猫が降りてきた。そして軽やかにナルトに駆け寄ると、そのままその肩に乗った。

ナルトは小柄だから、肩というよりも背負っていると言う方が正しいか。

「……お前の、猫か?」

「オレのって言うか、最近良く来るんだってばよ」

言いながらナルトが頭を撫でると、その猫は気持ち良さそうに喉を鳴らした。

猫はやがてチラリとオレを見、すぐに視線をナルトに戻した。

オレはあんまり動物とは相性良くないし、ナルトに懐いてる猫なのだと思っても、何だかちょっと嫌な態度だ。

おまけに何だか説教するタイミングも失ってしまったし。

「なぁ、サスケはもう足の裏にチャクラ溜めるのって慣れたか?」

ナルトが猫を撫でながらポツリと呟いた。

波の国で一緒に木登り修行をやったのだから、慣れたもなにも完璧にマスターしただろ…と言いかけて、ふとナルトが上から落ちてきたことを思い出した。

「まさかお前、その修行してたのか…。しかも失敗かよ」

呆れたように言うと、ナルトは慌てて顔を上げた。

「ち、違うってばよ!やりすぎて疲れてただけで、普通は失敗しないし…」

ナルトは猫が背中に乗っているのも忘れて立ち上がると、身振り手振りをつけて大げさに弁明する。失敗してるのがいつもの事だと思われるのが相当心外らしい。

まぁ、あれだけの修行が一過性のものでしかないのなら、才能が無いというしかないだろうが。

忍者学校でドベだったことを考えれば、この短期間にこれだけの力をつけたところを見れば、むしろかなりの才能を秘めていると言ってもいいだろう。

もちろんそんな事を言ってはやらないけど。

「サスケも、頑張ってんだな…」

ナルトが嬉しそうに笑って、汗で頬に張り付いたオレの髪を梳いた。

「お前はもっと余裕なのかと思ってたってば。だから一緒だと思ったら嬉しいってば」

「お前と一緒にするな、ウスラトンカチが」

自然とオレの顔にも笑みが浮かぶ。

いつもなら嫌味にしかならないオレの言葉も、今だけは他愛のない軽口へと変わっているようだ。

ナルトもムキなって言い返さない。

オレもナルトを馬鹿にしない。

珍しい事だ。


でも、それが嫌じゃない。



「あ、そうだ!サスケってばまだ時間ある?折角だからお茶飲んでけってばよ!」

そう言ってナルトがオレの手を引く。

今までならきっと振り払っていたかもしれない感触。なのに、今はそれに掴まれているのが、ちょっと嬉しい。

そう思ってる自分が不思議だ。

「お茶と、ココアと、カフェオレと、牛乳……あと何があったっけなぁ。」

ナルトもいつもならこんな風にオレの手を掴もうとなんてしない。

つまりナルトもいま、いつもと違う気持ちが湧いて、でもそれが嫌じゃなくて…という事だろうか。

だったらいいな、なんて思うまるでらしくない自分がそこにいた。

それは月明かりの下での幻だろうか。

明日になれば、日の光の下では、オレ達はやっぱりオレ達でしかないのだろうか。

そうでもいい。

でも、そうじゃなければもっといい。

別にわざと仲良くしたくないわけでもないのだから。

仲良くして良いのだから…───。





ふと、ナルトの部屋へ続く階段を登ろうとして視線を感じた。

振り返ればさっきの灰色の猫。

ナルトに振り落とされた後も、じっとそばでオレ達の様子を見ていたらしい。

でもナルトが部屋に戻ろうとしてもついて来ないらしい。

その場に座ったままじっとオレ達を、見てる。

ナルトはそれに気付かないけれど、


じっと…、見てた。


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08.05.17
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