◆突発◆

□突発
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「こんばんは」

闇に融けそうな、静かな、よく通るその声にドキリとした。

どこか恐怖にも似た緊張感が俺の体を支配して、喉がからからになっていた。

そんな雰囲気がカカシ上忍を包んでいる。

普段から親しみをこめた態度で接してもらったことはないけれど、今のこれはまるで敵意のようだ。





『Question・下』







「挨拶も返せないわけ?中忍くん」

一瞬、言われた意味が分からなくて呆然としていた。

「アンタ、もう帰っていいよ。あいつの監視は俺がやるから」

カカシ上忍の言葉にまだ自分の頭がついていかない。

この人は何を言っているんだ?

監視?

アイツって、ナルトを…?

「何よ、その顔」

カカシ上忍はなかなか理解できない俺にだんだんと苛々したような表情に変わっていく。一緒に包む雰囲気も刺々しいものになる。

まるでチクチクと肌を刺すような空気。

ナルトはいつも、こんな雰囲気を感じているんだろうか?

それなら必死に怒られないように頑張ってしまうのも頷けるというものだ。だけど、でも、これじゃ、とても“先生”じゃないだろう?!

「アイツを言いくるめるのが面倒だって言うんなら、俺が適当に暗示かけとくからサ」

なんなんだ、この人。

さっきから何を言っているんだ?

「俺は!」

つい、声が大きくなっていた。

ナルトに聞こえてしまうかもしれない、なんて考えは浮かびもしなかった。とにかくこの男の態度に腹が立って…

「俺は、俺が来たくて、ナルトに会いたくて、ここに来てるんです!貴方に帰れなんて言われる筋合いはありません!!」

相手は上忍だとか、元暗部だとか、そんな事は頭からすっかり飛んでいた。

同じ、ナルトを見守る者であるはずなのに、なんでこの男はこうなんだと、怒りが湧いて湧いてしょうがない。

「来たくて、来てる?」

カカシ上忍は俺の言葉に心底驚いたような表情を浮かべた。

目を見開いて、信じられないと言わんばかりだ。しかもその表情はやがて、俺を馬鹿にしたような、蔑んだものへと変わる。

でも、ここでそれに負けるわけにはいかない。

「そうです!貴方はそうじゃ、ないんですか?ここに来るのはいつだって……その、『監視』とやらの為…?」

「当たり前じゃない」

カカシ上忍は俺を馬鹿にしたようにきっぱりを言い捨てた。

それ以外の感情は何もない、心からそうとしか思っていないと言っているかのような態度。

ナルトはあんなにこの人を慕っているのに。

それがこの人にはまったく伝わっていないのか…?

「ナルトだって分かってるデショ。自分に『監視』以外で他人が親しげに近づいてくるなんて、そんな図々しい事考えないと思うけど?」

「貴方はっ!」

気付いたら俺はもう我慢できない、とばかりにカカシ上忍に殴りかかっていた。

でもすぐにするりとかわされてしまう。

腕に抱えた猫が動揺を見せないほどの自然な動きで、まるで俺一人がバカみたいに暴れてるような感じだ。

「中忍如きの拳が俺に入るとでも思ってんの?て、いうか、アンタ何をそんなに怒ってんの?」

演技か、本気か、カカシ上忍は理解できないといった表情を浮かべている。ナルトにあんな事を言うのは当然とでも言うように。

これじゃ、他の里の人間と何も変わらない。

いや、それ以上に性質が悪い。

「たぶん貴方には理解できないと思います」

「ああ、俺には理解できないようなな下らない事で怒ってるんだ?」

「下らないかどうか決めるのは俺ですから」

カカシ上忍は刺々しい雰囲気のまま、顔だけ笑う。顔が整ってる分、それは余計に俺に恐怖を感じさせる。

こわい、

だけど、ナルトはこの人に任せられない。

俺が守らなくちゃ…




「ナニやってんの?」



不意に背後からナルトの声がした。

考えてみれば随分長い事外にいるし、俺の声も割と大きかった。ナルトが此方の異変に気付かないわけはないだろう。

「きょ、今日はイルカ先生が相手してくれるから……」

ナルトもカカシ上忍の雰囲気に緊張しているのが分かる。

やはりこの人はナルトにもいつものこの状態で接しているのか…。

「だから、せ、先生は……無理して来てくれなくても、良いってばよ?」

泣くのをじっと堪えたような、そんな笑顔を浮かべてナルトが言う。

たどたどしいのは、泣くのを堪えているから?

それともカカシ上忍の雰囲気への緊張から?

どちらにせよ、そんなナルトは見ていられない。苦しんでほしくない。泣いてほしくない。

こんな顔は見たくない。



気付いた時には、自然と身体が動いていた。

まるでカカシ上忍からナルトを隠すように、

まるでナルトからカカシ上忍が見えなくなるように、

ギュッとナルトを抱きしめていた。すると、ナルトも震える手で俺の服の裾を掴んでくれた。

震えなくていい。

俺が隠してあげるから。

「ほら、ナルト。中に入ろう、晩飯作ってやるから」

ナルトはもう声も出さずにブンブンと大きく頷く。

やっぱりこれ以上此処にいたらナルトの心にストレスをかけすぎる。早くカカシ上忍のこの空気から抜け出させてやらなきゃ。

「じゃあカカシさん、お疲れ様です。俺達はこれで」

ニッコリと、完璧な、満面の笑みでカカシ上忍に言う。

カカシ上忍は何も言わず、でもまっすぐに俺達を見ていた。でもその視線は嫌悪でも、軽蔑もなく、まるで呆然と?

小さく会釈をして、ナルトを先に部屋に入れる。

そして俺も中に入ろうとした時、カカシ上忍の手から猫が嫌がったように飛び降りると、ナルトの足に擦り寄ってきた。

その様子からするとカカシ上忍の猫じゃないようだが、でも今は…。

「また、今度な?」

俺はそう言って猫を抱えあげると、そのまま扉の外に出した。猫は嫌がる素振りを見せたけれど、そんなのは関係ない。

ナルトも別段、反対する様子もなかった。

閉めた途端にほっと息を吐く。自分がどんなに緊張していたのか、改めて思い知らされてしまう。

それ程のすごい迫力だった。

ナルトはいつもこんなものを感じてるのか?


そもそもなんであの人はそんなにナルトを…

ただ憎む、蔑む、嫌う……だけじゃないような。

監視?…任務?

あの人は、何を…考えているんだ……?

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08.06.04
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