◆突発◆

□突発
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ナルトの苦しそうな、無理した笑みなんて見慣れている。

もちろん俺が威圧するからだと分かってはいるけれど、ナルトはいつだって俺の前で苦しそうに笑う。

嫌なら嫌で笑わなければ良いのに。

苦しいなら苦しいで、泣けば良いのに、いつだってナルトは笑う。


あの夜もそうだった。いつものように歪んだ笑顔。

だけど、なぜか……その笑顔だけが、俺の目に焼きついて……






『can't understand』







何度となく泣けば良いと思った。

なぜそうまでして笑おうとするのか、理解できない。俺に笑いかけたところで、俺の態度が優しくなるわけでもないのに。

馬鹿馬鹿しい事、この上ない。

まさか、いつかは優しくなるとでも、下らない期待をしている?

それこそ愚の骨頂だ。

俺は変わらない。

ナルトは“天災”であり、“監視対象”だ。それ以上でも、それ以下でもない。

そこになんら感情は存在しない。

執着も、拒絶も。

好きも嫌いもない。監視しろと言われたから側にいるだけ、上忍として指導しろと言われたから面倒を見ているだけだ。

その俺にナルトはじっと視線を投げかける。

何かを訴えているようでもあり、俺の何かを探っているようでもある。もちろん気付かない振りをするけれど。



『きょ、今日はイルカ先生が相手してくれるから……だから、せ、先生は……無理して来てくれなくても、良いってばよ?』



震える声音がまだ耳にしっかりと残っている。

緊張して、怯えて、焦って、震える声。

いつも威圧しているから聞きなれているのに、なぜかその声だけが耳に残っている。

泣きそうな、それを我慢したような、不自然な笑みだった。

それだって初めて見たわけでもない。

なのに、なぜか、

あの晩の顔が、声が、焼きついて離れない。

いつもと同じような状況、雰囲気、態度、会話。違う事と言えば、イルカがいたかどうかぐらいの事だろうか。

それがナルトに…いや、俺のナルトに対する気持ちに何らかの影響を及ぼしているとでもいうのだろうか?ナルトの事などなんとも思っていないと言いながら、いざ自分よりも別のものを取られると不満だとでも?

そんな子供じみた感情を俺が抱えていると?

考えれば考えるほど苛立ちが増すのは、それが図星だと言う証拠だろうか。自分の気持ちであっても、自分の思い通りになるとは限らないと分かっている。

でも、こんな事を納得できるはずもない。



なぜオレがナルトに執着しなければならない?

“天災”であり“監視対象”。

わざわざ嫌うことも面倒くさいし、ましてや好きになる事なんてあるわけもないのに。


なぜだろう。


目を閉じる度、何度もあの日のナルトが蘇る。

イルカに守られるように抱きしめられたナルトの小さな肩がちらつく。


どんなに否定しても、

目を逸らしても、

俺は、あの時確かに、






ナルトは俺だけを見ていれば良い、と

他の人間がナルトに触れてほしくない、と

そう、思っていたのだ。

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08.06.09
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