◆突発◆

□突発
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あれは綺麗な三日月の夜。

考えてみればそれだって初めてのことだったのに、その時のオレは気付けなかった。

やっぱり最初から、分かってたんだ…




『Promise-T』






例えば雨の日、

例えば新月の夜、

視界の悪い時を見計らって、彼はやってくる。


元々オレの部屋には里の人間は近寄らないし、何か起きても大して気にされない。

サクラちゃんとか、カカシ先生、イルカ先生の来ない時間を選べば、オレの部屋を訪ねるのなんてひどく容易いことだ。

人目の多いうちはの屋敷に行くよりはずっと…。

たまに木ノ葉に来たくなるのか、本当にオレに会いに来てるのか、確認したことはなかったけれど、イタチは時々オレを訪ねてくる。



淡い三日月の光が辺りを照らす夜、オレはぼんやりと空を眺めていた。

前は空なんてわざわざ見ようと思った事も無かったけど、最近良く見上げるようになった気がする。

……イタチが来るように、なってから?

見上げながら、自然と今どこにいるんだろう…なんて考えてたりする。もっとも、オレなんかがすぐ分かるようなところにいたら、あっという間にサスケにも見つかって兄弟対決って事になりかねないけど。

サスケは気付いてない、のかな。

イタチがオレの所に時々来てるって。

それとも、知ってても、オレの所には来ないのかな?

逆に言ったら、サスケがオレの所には来ないって知ってるから、イタチはオレの所に来るのかな?

いやいや、そうじゃなくて。

そうじゃなくてって、何がだよ…って独り言でツッコミってバカじゃねぇの、オレってば。


イタチが、

オレに会いたくて、

オレの所に来てくれてるんなら、良いなと思う。

オレの側で、ちょっとでも良い気持ちになってくれてるんなら嬉しいと思う。


誰かをこんな風に思うのって初めてだってばよ。




「こんばんは、ナルト君」

いきなり頭の上から声がした。

驚いて見上げると屋根の上にしゃがんでイタチがオレを見下ろしていた。そして唖然とするオレにニッコリと笑うと、音も無くオレの隣に飛び降りてきた。

「…久しぶりだね」

「かなり久しぶりだってばよ!」

ちょっと嫌味っぽいかな…とか、凄く逢いたかったっぽく聞こえるかな…とか、思ったけれど自然と言葉が出ていた。

でもイタチは気にした様子も無く微笑むだけで。


……と思ったら、いきなり抱きしめられた。

しかもイタチはなぜかびしょ濡れで、触れた瞬間に冷たいと思ったけれど、そのてを拒絶する事も出来なくて。

「何で、濡れてるんだってばよ?」

「すまない。途中で雨が降ってたんだ…」

「ふ〜ん、じゃあ、タオル……」

このままじゃお互い風邪をひいてしまうと、タオルを取りに行こうと身じろいだらイタチの腕がそれを留めた。

力がこもって、ギュッと抱きすくめられた。




寒いのか、ちょっと震えてるような、気もしたけれど、気付かない振りをした。




「どうしたんだってばよ?」

聞いてもイタチは答えてくれなくて。

でも自分をきつく抱きしめるその腕が、オレを必要だって言ってくれてるようで嬉しくて、オレは気付かなかった。


いつもとは全然様子が違ったのに。

今までこんな事は無かったって、訝しがっても良かったのに。

自分が嬉しいばっかりで、

イタチの気持ちも、考えも、何にも分かってなくて、

オレはこれが最後なのだと、気付けなかったのだ。

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08.06.14
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