◆突発◆

□突発
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オレの部屋の風呂は二人で入るには狭いけれど、いつも一緒に入る。

髪とか身体とか、洗い合うのが楽しい。

イタチだって楽しそうに笑ってくれる。


さっき、震えていたのが嘘みたいに。




『Promise-V』






イタチが先に上がって、オレが風呂の片付けとか全部終わらせてから部屋に戻ると、イタチはもう暁のコートを着て立っていた。

「もう、行くのか…?」

いつもなら、一晩は居てくれるのに…と淋しくなる。

だってこれじゃ本当に俺の顔見に来ただけじゃん。いや、それ以外の用事も実はあったのかもしれないけど!

「すまない、あまり時間がないんだ」

「……そっか」

時間無いのに無理してきてくれたんだと思えば嬉しかったけれど、暁に所属している危険な身の上のイタチが時間に余裕がないというのがどれほどのリスクを背負っているのかと思うと怖くもあった。

それでも、来てくれたんだ…

「元気で…」

「ああ、またな!」

それは自然とくちをついて出た言葉。

軽い別れの挨拶だった。友達に言うのと一緒、また明日も会うような…次に会う日が来ないわけないと信じきった言葉だった。

だってそうだろ?

いくら忍っていう危険と隣り合わせの仕事をしていても、

『暁』っていう危険な組織に身をおいていても、

『暁』っていう危険な組織に狙われていても、

本当にその瞬間が来るまでは、終わりなんて見えてない。次がきっとあるって思ってる。

だから『また』ってオレは言ったんだ。

だけどイタチは『また』って返してくれなかった。

ただ笑顔を浮かべて俺を見てた。



考えてみればいつもそうだった。

朝になれば何も言わずにいなくなってたり、

『じゃあ行くよ』って言ったり、

今日みたいに『元気でね』とか、

今まで一度も『またね』って再会を願う別れの挨拶はしてくれたことが無かった。それに気付いたら、急に約束がほしくなった。

絶対の約束がほしかったわけじゃない。

口約束でも良いから、何か、オレとの繋がりを残してくれたらって…そう、思った。

何でそんな事を思ったんだろうな。

オレも、無意識で何かを感じてたのかな…これが最後だって。どうにかしてこの人を繋ぎとめようって必死だったのかな?


「次、いつ来る?」

オレがそう訊ねるとイタチは驚いた顔で、オレの方を向いた。

それはそうだと思う。

今までこんな事言った事なかったし、イタチは『暁』だから、お互いの任務に関わる話はしたくなかったし、オレがイタチを探ってるなんて思われたくも無かったから。

だから今まで聞こうと思ったことも無かった。

「珍しいね、そんなこと聞くの」

「い、いつもいきなりだと、驚くってばよ…」

言い訳すると、余計に探ってるように見えそうだったけど。

でもきっと、イタチならオレのドキドキの理由も意味も分かってくれてる気がした。

「ナルトくんの驚く顔が見たいんだ」

「は?!」

「…なんてね」

イタチは優しく笑って、オレの頭を撫でた。髪の感触を楽しむように、何度も、何度も…

イタチの手は大きくて好き。

撫でられるのも好き。

だけどその時はなぜかというか、やっぱりというか、落ち着かなくて、困った。

「出来ない約束はしたくない」

イタチは笑顔を消して言った。

「破られた約束にナルトくんに泣いてほしくない」

じゃあ、守ってくれれば良いのに…と思ったけれど。

とても口に出すことなんて出来なかった。

「また、会えたら良いのにね…」

一瞬だけど、泣きそうな、苦しそうな、切ない表情をしたイタチに、オレはもう何も言えなかった。

イタチの言葉は…約束というよりも、それは祈りのよう。

願うのは自由だから。

叶うと決まったわけではないから、叶わなくても、それになく事はないから…

約束は、してくれない。



「ごめん、もう行くね」

イタチはまたいつもの優しい笑顔に戻っていた。

でも、オレはいつもの笑顔を浮かべることが出来ないし、胸が詰まって言葉も出てこない。

「ナルトくん?」

イタチがオレの顔を覗き込むそうに首を傾げた。

オレは今どんな顔してる?

笑わなきゃ、笑顔で送り出してやろうって思うのに…

「そんな顔させたかったわけじゃないけど」

やっぱりオレってば笑えてない。

笑えるわけないってば…

会いたいのに、次もまた会いたいのに。

もう会えないなんて思いたくないから、約束したら絶対に会えるなんて思うほど子供じゃないけど…その約束を信じて待てるから…。

だってイタチが居なくなるわけないじゃん。

あんなに強いのに、絶対次だって会えるじゃん。

じゃあ約束なんか無くたって安心して待てば良いのに…って言われそうだってばよ。つまりオレだってやっぱり恐れてるんだってばよ。

次は来ないかもしれないって。


「ごめんね、君が好きなんだ…」

イタチはそう言って掠めるようにオレに口付けて部屋から出て行った。

何か言わなきゃ。

何を言えば良い?

約束は出来ない。

オレの言葉をイタチに押し付けるわけには行かない。

だけど、何かを……!!



オレは弾かれたように部屋を飛び出すと、まだそこにあったイタチの背に手をのばした。

もう少しで触れる…と思った瞬間。

小気味良い音とともにイタチの姿が煙の中で掻き消えた。

オレの部屋から出たら、オレとイタチはもう敵同士だ。そう簡単に触れることなんて叶わない。

でも直前に手が掠めたのか、オレの手にはイタチの髪を縛っていたらしい一本の紐が残っていた。オレが無理やり奪ったのか、イタチがわざと残したのか、オレには分からなかったけれど。

でも、確かにオレの手の中にそれはある。

「す、隙あり!」

もうどこにいるとも知れないイタチに向かって叫ぶ。

まだ近くにいるかもしれないし、ずっと遠くまで離れてしまったかもしれない。

でも、聞こえているかもしれない。

「この紐は預かったってばよ!悔しかったら取りに来てみろってば!」

ちょっと馬鹿にしたように言ってやる。ムキになって取りに来るなんて思わないけど…きっとこれは茶化して言った方が良い。


だって、これは約束じゃない。

絶対に来てって言ってるわけじゃない。

だけど、オレは来てほしいってことだってばよ。

なぁ…イタチ。そう聞こえるよな?

約束じゃないんだから。

いつかで良いから、来れたらで良いから…だから、きっと…

「じゃあ、いつか取りに行くよ」

どこからともなくイタチの声が響く。

返してくれるわけないと思ってたから、オレは信じられない気持ちで辺りを見回した。

もちろん姿なんて見えないけれど。

「それまでせいぜい大事にしておくんだな」

冗談みたいに、馬鹿にしたように、イタチの声が響く。

駄目だってばよ、イタチ。返事をしたら、言葉を返したら、……これじゃ、もう約束になっちゃったってばよ。

いいの?

約束してくれたの?

守れない約束はしないんだってばね?じゃあ、きっとまた…って思うってばよ?

オレを泣かせないんだよな?

そう、なんだよな?







オレは今日もベッドの上で、手元に残った一本の紐をじっと見つめる。

最初で最後になった約束。

最後だと思ったから、約束してくれたのか?

今まで約束なんてしてくれなかったくせに、もう終わりだからせめて…って?

だとしたら、


……だとしたら、そんなの、酷いってばよ…。


でも泣いてなんかやらない。

死んだなんて信じない。

イタチが約束したんだから。

守れない約束はしないって、オレを泣かせたくないって、そう言ったんだから…

だから、オレは泣かないってば。




fin.

++++++++++

08.06.15
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