◆突発◆

□突発
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「こうして会うのも久しぶりだな」

そう言ってカカシはソファに座っている愛しい恋人にコーヒーを差し出した。もちろん可愛いその子の趣向に合わせて砂糖もミルクもたっぷり入っている。

ありがとう、と言って嬉しそうに受け取ったその子の隣に並んでカカシも腰を下ろす。

このところ同じ班であるにも拘らずカカシにのみ別任務を宛がわれる事が多かったのだ。おそらくヤマトという優秀すぎる代理も居る事もあり、遠慮なく…といったところだろう。

おまけに互いの休みも中々合わなかった。

ようやく休みが合う日が見つかり、やっと一緒にくつろげたと思ったら、かれこれ一ヶ月ぶりだ。

「先生ずっと忙しかったみたいだもんな〜」

隣で無邪気に笑う声が耳に心地良い。

「会えなかったけど、ずっとナルトの事を考えてたよ」

言えば隣で、少し頬を赤らめて、照れたような困ったような笑みを浮かべる。

そんな彼がカカシは愛しくてたまらない。

抱き締めたいな、と思った気持ちのままにその同年代と比べて少し細い肩を抱けば、ますます頬を朱に染めながら首をカカシの方に傾げて笑う。

「ナルトも俺のこと考えてた?」

当然考えてただろうと言わんばかりにカカシが問えば、途端にナルトの身体が硬直する。

緊張、というか、まるで聞かれたくない事でも聞かれたような、とにかく不自然な様子に変わった事だけは間違いない。

その反応にカカシの方も動きが止まる。

「…………て、ない」

ぼそっと、聞こえないほど小さな声でナルトが言う。

「会えないときは、カカシ先生の事は考えないってばよ」

任務とか修行とか色々他の事考えてる…なんて言うナルトにカカシは絶句するしかなかった。正直、岩かハンマーで殴られたかのような衝撃を受けていたけれど。

頭が真っ白で、言葉が見つからなかった。




『薄情恋情』






「あ、えと」

カカシは必死に言葉を捜すけれど、ショックが大きいせいか中々出て来ない。

「修行の合間とか、任務の休憩中とか、も考えてくれないの?」

「ん」

「そ、そうなん、だ…」

かなりの衝撃だった。

自分はかなりナルトを好いているし、それと同じくらいナルトも自分を好いてくれていると思っていた。

時間を惜しむようにお互いの事を考えて、

暇さえ有れば会って、話して、触れて、

そんなお互いを思う気持ちは同じだと思っていたカカシだ。

なのに、今まさにその考えを最愛のナルトに否定されてしまったのだ。そのショックは計り知れない。

「ナルトは俺に会えない間も寂しく無いんだ…」

ちょっと女々しいし、恨みがましいかな、とも思いながらカカシが呟く。そう思われたとしても、実際にそう思ったのだからしょうがないと開き直ったのだ。

「寂しい、ってばよ?」

ナルトがそう言ったけれど、それだとさっきの言葉と矛盾している事になる。

取って付けた様な言葉でこの場を取り繕おうとしたって駄目だとカカシは呆れたように溜め息をついた。

「だって、俺の事を思い出さないんでしょ?」

冷たく聞こえるかな、とも思いながら、少し声のトーンを落として言ってみる。



とはいえ、カカシはまだナルトの肩を抱いたままだし、

ナルトもカカシの腕の中に納まったまま、だ。

どちらも、その体勢を崩そうとはしない。



「だって」

言って、ナルトが俯いて縮こまるように己が膝を抱えた。

まだ半分ほど残っているコーヒーをちびちびと飲みながらちらりとカカシを伺い、また視線を自分の足元へと戻す。

カカシはただ黙って「だって」の先を待っていた。

「だって、思い出したら、考えたら…寂しくなるってばよ」

小さな、震えているかのようにさえ聞こえる弱々しい声でナルトが言った。

「会えないって、カカシ先生は忙しいって分かってるのに…」

ナルトの手の中でコーヒーの水面が揺れる。

「休みの日だって、折角の休みだから休みたいかなって思ったら声かけづらいし、会いに来たら迷惑かなって思うし」

カカシのコーヒー水面も同じように揺れていた。

「だから」

ナルトは意を決したようにカカシを見上げた。

「考えない。他の事考えて、カカシ先生の事…思い出さなかったら寂しくない。寂しくて苦しい思い、しなくて良いってばよ」

寂しくて、

淋しくて、

でも会えなくて、

会って欲しいとも言えなくて、

相手を思うあまりに。

でも、

やっぱり淋しくて溜らない。

会いたくて溜らない。

仕方ないって何度も言い聞かせても、どうしてここにカカシはい無いのかとナルトは胸が苦しくて仕方なくて、やっと見つけた逃げ道が『考えない事』だった。

思い出さなければ、苦しくない。

悲しくない。

だから、思い出さないし、考えない。

「ごめん、先生。でも、俺さ、俺さ…」

ナルトが必死に言い募ろうとするのを、カカシはギュッと抱き締めた。自分のカップを置いて、すばやくナルトのカップも置いて。

ギュッと、ナルトを抱き締めた。

自分はここに居ると、側に居ると、もう寂しくないとナルトに伝えるように必死にギュッとカカシは抱き締める。




好きで、好きで、好きで、

薄情に見えても、

好きなんです。


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08.08.16
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