◆突発◆
□突発
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オレは野良猫だ。
気付いたらこの辺りをうろついていたから、たぶん生まれた時から野良なんだろう。
ずっとそう信じていた。信じてきた。
その“ずっと”が何時からの事なのかも気付かずに…──
『non-Cat』
朝、起きると身体に違和感を覚えた。
いつもの様に伸びようと思ったのに、身体が思うように動かない。だからと言って痛いわけでも、麻痺しているようでもない。
ただ、何かが違う。
とりあえず起きようと身体を起こせば、その体の重さに無様にも倒れこんでしまった。特に身体がつらいわけでも、きついわけでも無いのに、この体の重さ、違和感。
はっきり言って何が起きてるのか全く分からない。
考えれば考えるほど混乱してくる。
ふと、身体を起こそうとして、自分の手を見た。
というか、目に入った。
「な、んだ…コレ……」
呟いて自分の声の異変にも気付く。
手が、オレの手ではない。
声が、オレの声じゃない。
よく見れば、
足も、身体も、何もかも。
これはどう見ても『金』と同じ人間ではないか。だが、自分はただの猫だ。これと言って特技を持ってるわけでもない。
どこにでもいる野良猫だ。
もちろん人間への変身能力など持つわけもない。
ましてや神様がオレの、“『金』が、オレを好きになれば良いのに”という願いを叶える為に、オレを人間に変えてくれたのだ…なんて御伽噺のような事を考えるほど馬鹿でもない。
だが現にオレは『人間』に変化している。
つまり誰かが、何らかの目的でオレに術をかけたということになるのだ。
でも、誰が?何の目的で?
オレなんかを人間にするメリットなど何も無いだろう。単に新術の実験体にでもされた…という方がよっぽどしっくりくる。だけど、それだっておかしな点が無いわけでもない。
術をかけられた事になぜ気付かなかった?
その記憶を消されたのなら、なぜ身体は元に戻さなかった?
開発途中の術だったから元に戻せなかった?
だったら、なぜ記憶を消した?どうせそのうち術が切れて猫に戻るのなら、記憶が有ろうと無かろうと大した問題ではないはずだ。
人間でいるうちに何かをしでかす事を心配したのなら、いっそ閉じ込めてでもおいた方が楽に済む話だ。
なのに、
オレを人間にして、
その記憶を消して、
放置?
いや、待て。
そもそもオレはどうして分かる?
変化?術?記憶を消す?
いくら忍の里に育った猫とは言っても、忍猫なわけでもない。ただの野良猫だ。忍者との交流などあるはずもない。
あっても『金』に撫でてもらうくらいだ。
なのに、どうしてそんな言葉を知っている。
どうして、その意味を知っている?
オレは、野良猫だ。
生まれた時から……───
生まれた、時って何時だ?オレは何時から此処にいる?
ずっとだ。
ずっとだ、と思うのに…どうして、『金』と、『金』の家の周りをうろついている記憶しか無いんだ?『金』に会う前は?オレは何してた?
どうして、思い出せないんだ…?
「なんだ、術が綻んでる気配がして来てみたら…」
不意に、声がしていきなり頭を鷲掴みにされた。
頭は考えがまとまらずに混乱するばかりで、とても抵抗する事なんか出来ない。太陽を背にしたそいつの顔は、逆行でよく分からなくて、でも人間になった自分とさほど体格が変わらないのは分かる。
「こんな事初めてだな。『九尾』のチャクラに何か乱されたのかね?」
そいつは、そう面倒くさそうに呟いて、オレの目を覗き込んだ。
そいつの左目は血の色をしてた。
「今更作り直すのは面倒だからな、報告日まであと2日頑張って頂戴よ」
作り直す?
報告日?
何の、話……?
「俺の方から強制的に変化の術は使えるかな?一旦、暗示を解いて自分で変化させてから、暗示をかけなおすほうが良いかな?どっちにしろ面倒くさいな。本当に、手間かけさせてくれるよね、ナルトは…」
なると…?
ああ、『金』の、事?
どうして、分かるんだ、オレ…?
「何も、考えるな」
今日にそいつが強い口調で言った。
「お前は猫だ。野良猫だ。何も考えるな。ただ、此処に居て、ナルトを見てれば良い。」
オレは、猫?
そう、猫だ。野良猫だ。
そいつの赤い瞳を見ていたら、段々と意識が朦朧としてきた。コイツの術なのか?
「考えなくて良いよ。そういうのは、2日後に全部聞いてやるから」
2日、後?
聞くって…何を?
駄目だ、頭がグラグラして考えがまとまらない。
何もかもが、よく分からない。
もう、駄目だ。
意識を……保て、ない。
「オヤスミ、……げ、んし、………」
最後に何か言われた気がしたけれど、もう意識は無かった。
オレは野良猫だ。
気付いたらこの辺りをうろついていたから、たぶん生まれた時から野良なんだろう。
この界隈に猫は少ないらしく、縄張り争いなんて言うのにも縁がない。日がな1日、領域内をぶらつくような、そんなのんびりした日々を送っている。
そんなオレの最近の楽しみは『金』に会いに行く亊。
月に照らされてキラキラと光って見えたその『金』が、最近のオレのお気に入りだ。
月に煌めくその金を眺めるのが好きで。
『金』が、オレを好きになれば良いのに……──
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08.08.26