◆突発◆
□突発
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オレはカカシ先生が好き。
カカシ先生はオレが好きじゃない。てか、嫌い…なのかな?
だってオレってば『九尾』だし。里の大人に嫌われてるのは慣れてるし、てかオレに普通に接してくれるイルカ先生とか三代目じーちゃんの方が珍しいんだし。
最近、カカシ先生が怒らない。
怒るって言えば、怒るけど、前よりはその回数が減った…気がする。
オレが成長したってわけでも無いと思う。それなりに身に付いて来たとは思うけど、失敗の数が目に見えて減った気はしない。
だから多分、カカシ先生が怒らなくなった?
何でかは分からないけど。
『change』
その日はシカマル達第十班と共同で広大な荒地の除草作業だった。まずその広さに驚いて、自分に宛がわれたエリアの広さにうんざりした。
それでもオレの日ごろの手際の悪さを考慮してか、オレのエリアが一番狭かったんだけど。
作業を進めれば進めるほど、オレの手際の悪さが目立つ。
オレの仕事の遅さが目立つ。
時々シカマルとかサスケが草を集めながら声をかけてくれるけど、ちゃんと返事出来てたかな?オレってばとにかく頑張ろうって考えるばっかで、あんまり覚えてない。
カカシ先生に怒られたくなくて、
カカシ先生にイライラしてほしくなくて、
だから仕事を頑張ってるのに。
中々思う通りにはいかない。
サクラちゃんもアドバイスくれるんだけど、オレがやると言ってくれた通りにならないんだよな。やってるつもりなのに、出来ない。
そんな自分が悔しくて、情けなくて、涙が出そう。
いつもならカカシ先生を盗み見るのに、そんな余裕もない。だって見た時にきつく睨まれてたら辛いし。
だから見るのはカカシ先生が見て無いときだけ。
一緒に引率で来てるアスマ先生と話してる声が聞こえた時なら、多分こっちは見て無いかなって、やっとカカシ先生が見れる。
カカシ先生に笑顔は無いけど、少なくともオレを見るときみたいな嫌そうな顔はしてない。
その違いが切ないけど、顔が見れるとやっぱり嬉しいから…
「ナルト、少しは休憩しろよ。バテてもしらねぇぞ」
ちょうどシカマルが自分がとった草を抱えてやって来た。抱えている量もかなりの物だし、これでもう何度目の往復だろう。
「けど、オレってばぜんぜん終わって無いし」
「疲れてる方が仕事の能率も下がるじゃねぇか」
言ってシカマルがオレの隣に腰を下ろした。つまり一緒に休憩しろ、という事らしい。
じゃあ仕方ない、という様な顔をしてオレも同じように腰を下ろした。
いくら九尾のチャクラで頑丈とはいえ、さすがに疲れていたのか、急に身体がぐったりと重くなる。シカマルが「ほらみろ」なんて言って笑う。
水分補給と、少しのエネルギー補給。
カカシ先生がサボってる、とか思って見てるんじゃないかとドキドキしながらも、オレはシカマルと少しの休憩を過ごす。
「お〜い、シカマル!」
不意にアスマ先生がシカマルを呼んだ。
何だろうと顔を上げるけれど、カカシ先生がアスマ先生と一緒にこちらを見ていたら、と二人の方へ視線を送る勇気は無かった。
「何だよ、アスマ」
シカマルは面倒くさそうに立ち上がってアスマ先生の方を向く。
「そのままナルトに、もう少し手際の良いやり方とか教えてやれ」
自分は作業に戻ろうとしていたのに、関係無いとばかり思っていた二人の話に自分の名前が出てきて驚いた。
シカマルも突然俺の話が出て驚いてた。
「面倒くせぇな〜」
もちろんそう思ってもいるだろうけれど、それはシカマルの口癖でもあるから、多分今のは後者の方。だってシカマルって、何だかんだ言っても面倒見いいし。
それに、勉強はオレと同じでダメだったけど、他の事考えさせたらすげぇ頭良かったし。
もしかしたら除草の裏技も考えてて、それを教えてもらえるかも??
だったらラッキー!
シカマルがチラッとオレを見る。オレも、シカマルをキラキラした目で見つめてる(つもり)。
と、急に俺の身体が宙に浮いた。
目の前ではシカマルがぎょっとした顔で固まってる。
オレは何が起きたのか分からなくて、でも自分を吊り下げてるのがオレの服の首根っこを掴んでる何かなのかは分かったから、恐る恐る、振り返ってみた。
「仕方ないからね」
そう言ってオレをぶら下げてたのは、さっきまであっちでアスマ先生と話していたはずのカカシ先生だった。そりゃ上忍だし、この速さで来るのも不可能じゃないだろうけど。
な、何が?
何で?
何してんの??
「オレが教えてあげるって言ってるんデショ。嫌なの?」
「い、嫌って、そんな…」
嫌がるならカカシ先生の方だろ?って思ったけど、折角カカシ先生が言ってくれてるんなら、このチャンスを逃す手はない。
今までみんな一緒に、とかじゃないとちゃんと教えてくれたこと無いのに。
…どういう心境の変化だってばよ?
怒られる数が減ったかも…とは思ったけど、コレはちょっとそれ以上の驚きだし。
で、でもでも、もしここでしっかりやればちょっとはオレの好感度も上がるかもってことだよな?
「早く来なよ、オレの気が変わっちゃうよ?」
シカマルを窺えば、微妙な顔でまた自分のエリアの方へと戻って行った。遠くではアスマ先生が笑ってた。
オレは良く分からなかったけど、とにかく嬉しくて。
カカシ先生が側にいる。
カカシ先生が怒ってない。
それが嬉しくてたまらなくて。
そのあとのカカシ先生のスパルタ指導も、全然苦にはならなかった。
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08.08.30