◆突発◆

□突発
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祭囃子が聞こえる。
楽しそうに駆けて行く子供達の声も賑やかだ。里中に祭の騒々しくも華やかな雰囲気が溢れている。
見てる自分もなんだか楽しくなるから不思議なものだ。


そんな事を考えながら、窓の外を見ていた。
オレの部屋は、里の建物の中でも割と高い位置にあるから、こうして眺めるのにはとても便利だ。花火だって視界を遮られる事もなく、見放題だし。
「ナ〜ルト」
不意に背後からかけられた声に、驚きつつも自然と口元が緩む。
「何でわざわさ気配殺して入って来るんだってばよ!」
「ん〜?だってナルトの驚く顔が見たいじゃない。」「悪趣味!」
音も無く近づいてきたその人は、にっこり笑ってオレの頭を撫でる。こういうトコロが、いつまでも子供扱いされてるな、と思うけれどは抵抗はしない。
だってオレもその手の感触が好きだし。
だから子供扱いされても仕方ないとは分かっているのだ。早く大人になりたいとも思うし、もう少しこのままで、とも思う。



「祭り、盛り上がってるね」
オレと同じ様に窓の下を眺めながら、カカシ先生が呟いた。
「うん、楽しそうだってばね」
「サクラ達が舞を舞うって、」
「ああ、聞いた。サイとかシカマルも手伝うって」
「へえ」
そう言いながら、オレは休めていた手の動きを再開させた。クナイ、手裏剣、兵糧丸、巻物、任務に必要な物を順番に鞄に詰めていく。
うっかり入れ忘れてて任務失敗なんて洒落になんないから、こういう準備ってすごく大事だ。
「お前は?」
ぽつりとまたカカシ先生が呟いた。
「へ?」
意味が分からなくて、カカシ先生を見上げるけど先生の視線は窓の外に向いたまま。
オレが見てるのに、こっちを向いてくれない。
「オレが、何?」
改めてそう言っても、カカシ先生はオレの方を向かない。
しかも、いつの間にか機嫌が悪くなってる?
なんで??
オレってば何か変な事でも言ったっけ?ていうか、言うほど会話だってしてないのに。
「…カカシ、先生?」
原因が分からなければ迂闊な事は言えない。
でも、このまま微妙な空気でいる事も堪えられそうにない。なるべく刺激しないようにと、恐る恐る声をかける。
するとやっとこちらを向いてくれた。
でも、向くやいなや、思いっきり大きな溜め息を疲れた。

何、その態度…



「…お前は、手伝わないの?」
カカシ先生は困ったように笑って言った。
ああ、と思ってオレはカカシ先生に向かって笑って見せた。
「オレってばこれから任務だし?」
手伝いたくても手伝えないんだから仕方ないのだ。
祭りだとは言っても、任務があるのならそちらを優先するのは至極当然の事だ。
手元で準備中だった鞄をカカシ先生の方に向けて見せる。
だけど、カカシ先生は全くと言っていいほど納得した様子はなく、むすっとしたままオレの事を見ている。嘘は言って無いし、何が気に入らないのか全然分からない。
「お前、自分で志願したんだろ?」
「………ばーちゃんめ…」
確かにオレはこれから任務。
そして、それは確かにオレ自身が望んだことだ。
祭りに浮き足立った若い忍が任務を嫌がるだろうから、その分の尻拭い…なんて言う慈善的な意味では全くない。浮き足立ったこの日だからこそ、というのは確かに事実だけど。
でも、綱手のばーちゃんにだって理由までは言わなかった。
ただ、この日に任務が欲しいと言っただけだ。
ばーちゃんが何かしら思案しているような表情を浮かべているのは分かっていたけど、気付かない振りをした。ばーちゃんだって、それ以上何も言わずに任務をくれたし。
それで片は付いたと思っていたのに、まさかカカシ先生が出てくるとは…。
「サクラがお前が来ないって言ってたから、」
「オレも見たかったってば」
「じゃあ、行けばいいだろ」
どうやら、カカシ先生はオレが祭りに行かないのが不満らしい。
オレの事なのに、まるで自分の事みたいに怒ったりしてくれるカカシ先生に、自分がすごく大事にされてるんだなっていうのは分かる。分かってるけど、それをこれとは別なのだ。
「いいか、ナルト。お前が人柱力だからって、こんな時に変な遠慮とか引け目とか感じなくていいんだぞ。もう昔と違ってお前はちゃんと認められてる。堂々と祭りに行ったって、誰が怒るわけでも無いだろう?!」
「分かってるってばよ?」
やっぱり、オレが祭りに行かないって言うとそういう風に思われるよなぁ…と予想通りの反応に苦笑するしかない。
でも、そう思われたとしても、オレの考えはそうではない。
「分かってるなら…」
「大人のフンベツってヤツ?」
使い慣れない言葉だったけど、知ったかぶってエッヘンと言い切った。
するとカカシ先生がますます胡散臭げにオレの事を見る。
なんだかすごく失礼な気がするのは、気のせいじゃないと思う。オレだってそれくらいの意味知ってるっての!
「今のオレってば、みんなにすごく優しくされてるって思う」
友達も、心優しき先達も、頼れる上司も、心許せる先輩だって、いろんな知り合いが増えた。
それは間違い無く事実。
今のオレってばすごく幸せ。
もう一人で殻にこもって身を守らなくたっていいんだって、ちゃんと分かってる。
「だけどさ」
オレってばちゃんと分かってるんだ。
大人だから、色んなことを知って、考えて、感じて、思って、ちゃんと理解してるんだ。
「それが全部じゃないって分かってるから」
100%全員と分かり合えるなんて夢物語だ。普通の議論であってさえ、多種多様の意見がある。二者択一にするから意見が同調しただけで、細部においては理解しあえない事など当然だ。
それが人間なのだから。
それが理由。
だから、オレは祭りに行かない。

→下
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08.10.25
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