◆突発◆

□突発
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カカシ先生はやっぱり納得の行かないといった顔でオレを見てた。オレの言い方が悪いのかな?
でも、どう言えばいいのか…
「ちゃんと、オレは“うずまきナルト”であって“九尾”じゃないって、分かってもらえてるってもう知ってるってばよ?」
昔のように冷たい目で見られる事はない。
歩いていれば普通に挨拶してくれるし、笑ってもくれる。
もうちゃんと里の人間として認められてるんだって、肌で感じて分かってる。
だから、分かってるからこそ、これはオレ自身が里の為にやりたい事なのだ。それを、どうしたらカカシ先生に分かってもらえるだろうか。
「だったら…」
「だけど、祭りの時って気分が高揚するし、酒飲んだりしたら理性が緩むだろ。無意識の本音っていうか、余計な一言っていうか……」
“九尾”は憎い。
“ナルト”は“ナルト”。
その境界を、雰囲気や酒が曖昧にさせるかもしれない。
そうなれば折角の雰囲気が台無しになる。
「こういう時だからこそ、オレの存在はいざこざの種になりかねないと思う」
オレは里が大切で、大好き。
里に住む人たちもそうだ。
その人たちがこんなにも楽しそうにしてる祭りに、オレという存在が水を差してしまうとしたら、それはオレにとって耐え難い苦痛となる。
折角みんなが楽しんでるのにって悔しくなる。
そんな思いはしたく無いから…
「べ、別に、祭りに行けないのを拗ねたり、ヘソ曲げたりしてるわけじゃないってばよ?!オレってば、本当に…」
「お前って、馬鹿」
カカシ先生は呆れて、頭を抱えながら溜め息をつく。
でも、溜め息をつかれても、呆れられても、オレの意思は絶対に変わらない。オレはみんなの邪魔はしたくない。
みんなが楽しいなら、その様子を見てるだけでオレは楽しい。
それで良いんだ。
「カカシ先生は、行かないの?」
カカシ先生はオレよりも大人だし、もちろんオレみたいな事情も無いし、馴染み深い祭りだろう。今から任務に行くオレに会いに来るよりも、祭りに行かなくてよかったのかな?
「行かないよ」
そう言って笑う、カカシ先生の顔が寂しげに見える。
「ほんの今、行かない事に決まったの」

・・・・・・。


それって、つまり?
「オレが行かないから?」
「そういう事」
「オレと行く気だったって事?」
「そう聞こえない?」
聞こえるけど、でもオレがダメだったら一人でとか、別の奴と、とか……色々選択肢はあるのにさ。
そりゃあ、カカシ先生がオレ以外の奴と楽しそうにしてるのなんて良い気分じゃないけど。だけど、だからってオレの所為でカカシ先生が楽しみにしてた祭りに行けないっていうのも申し訳ない。
「急ぐ任務じゃ、ないんデショ?」
カカシ先生の言葉がオレの心を揺らす。
そりゃあ、きっと、行けば、オレが普通だったら、楽しいよ。
沢山の出店を眺めて、色んなもの食べたり、ゲームしたり、偶然会った友達とあっちの店がどうだとかって話したり…さ。

だけど、


でも、

オレは……





「じゃあ、行こうか」
急にカカシ先生がそう言ってオレの手を強く引いた。
そのまま玄関に向かっていく。ちょっと待って、と抵抗するけどカカシ先生は止まってくれなくて。
まるで散歩を拒否するペットを無理矢理リードで引く飼い主のような状態かも。人に見られていないとはいえ、ちょっと恥ずかしいか。
「い、行けないってば!」
「何で?」
さっきオレがちゃんと説明したのに、まるで何も聞いていなかったかのようにしれっとカカシ先生が言う。
ワケが分からなくて、ちょっとムッとする。
そんなオレの表情に気付いてか、カカシ先生がポンポンと優しくオレの頭を撫でた。でもそのくらいでオレの機嫌は直らないってばよ。
「あのね、ナルト」
カカシ先生の顔に優しげな笑みが浮かぶけど、オレは笑い返さない。
だって、行けないって言ってるのに…。
「祭りのときの喧嘩も諍いも、よくある事だよ。普段の飲み屋でだって喧嘩する奴はするんだから。そりゃ、絡まれたらナルトは良い気分じゃないだろうけど、でもナルトがいたらダメだって事にはならないよ」
確かにカカシ先生の言うことも分かる。揉め事の原因の一つにはなるだろうけど、全部じゃないって分かってる。
だけど、一つでも厄介事は減った方がいいと思うし。
「俺は、ナルトと一緒に行きたい」
グイッと引かれて、オレとカカシ先生は向き合うような体勢になる。オレの顔を包み込むように、頬にカカシ先生の両手が添えられる。
てか、顔もすごく間近なんですけど…
「ナルトは、行きたくないの?」
ううう、こういう聞き方って…
でも、



「行きた、……くない」



それはやっぱり、早々変わらない気持ち。

「何で?俺が側にいるんだし、そう簡単に絡まれたりしないって」
「そうじゃ、ない。……そうじゃ、なくて…」
本当はこっちの理由はあんまり言いたくなかった。
子供っぽいって言うか、情けないって言うか。
たぶん人に言えば、そんな事で、と一笑に付すような事だと思う。もちろんオレにとっては難しい問題なんだけど。
「行っても、」
この感情は、怖い、に近いのかな?
「どうしたらいいのか分かんない」
ほら、カカシ先生も変な顔してる。
だから言いたくなかったのにな〜
「オレってば、ここから眺めて楽しそうだな〜って思うのが好きなんだってばよ。ほら、ちゃんと周りが見てくれるようになってからもさ、2年は里にいなかったし……なんだか、気後れっていうか…それでまたみんなの雰囲気に水差してもわりぃなって思ったしさ!」
オレはなんだかカカシ先生の顔が見れない。
オレってば情けない…
かっこわるいよね。
「ずっと、この窓から見てた。でもいざ行って良いと思っても、近付くのが、怖いんだってばよ」
拒否される事は無いと分かってる。
みんな笑って受け入れてくれるって分かってる。
分からないって言ったら、きっとちゃんと教えてもくれる。
そんな事は分かってる。

だけど、折角みんなが楽しんでるのに、手間取らせるんじゃない?気が削げるんじゃない?
オレって邪魔してない?

そう思うと、怖かった。

だから…



「だったら、それこそ、俺と行こうよ」
オレの、俯いた頭ごと、カカシ先生がギュッと抱き締めてくれた。胸の温もりが暖かくて、自分が緊張していたことに気付いた。
ほっと、やっと息を吐く。
「俺が、色々教えてあげる。だから、俺と行こう」
行っても、良いのかな?
行けるのかな?
大丈夫かな?
「ね?」
結構固い決心のつもりだったのにな、なんて思いながら…
結局のところ、急がない任務を回してくれた綱手のばーちゃんもこうなるだろう事は予想がついてたんだろうって事だし。
オレ一人、馬鹿みたい?
「ナ〜ルト?」
クスクスと、楽しそうに笑うカカシ先生。
もうオレの気持ちがかなり傾いてるって気付いてるらしい。
「行こう?」


甘く耳をくすぐるカカシ先生の声。

その声に、負けたオレが頷くまでは、もうあと少し……

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08.10.26
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