◆突発◆

□突発
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自分の気持ちが分からない。

傍から聞いたら、さぞ馬鹿馬鹿しい事だろう。だけど事実なんだから仕方ない。

自分が何を考えているのか分からない。

イライラする。落ち着かない。混乱してる。

その元凶は分かってる。

だけど、どうしてそれが俺がこんな風になってる元凶なのかが分からない。

どうしたら、それが分かる?




『silly talk』






「アンタ、そいつに惚れてんの?!」
誰とは言わず、ただ目が勝手に追う、誰かがそいつに近付くのが気に入らない…と言ったら、たまたま一緒に食事をする事になった紅が言った。

「いや、男だろ。なぁ、カカシ…」
さも事情を知っているかのような顔をして同じテーブルについているアスマが言う。

確かに、そいつは男だ。
しかも生徒で、部下で、まだ12歳の子供だ。
“惚れる”などといった対象にはおおよそなりようがない。

「あら、偶々好きになった人が男で、だから信じられなくて…っていうのも有りよ!」
紅が面白がったように言う。
確かにそういう事が無いとは言い切れないが、それが今の自分に当てはまるのかと聞かれれば、甚だ疑問だ。

「お前はその手の本とか読みすぎだ」
「あら、人の趣味に口を出す気?!」
この二人も口を出せる程度には趣味を知り得る仲には発展しているらしい。微笑ましいと言えなくもないが、他人の仲に興味は無いし、自分には関係ない。
というか、目の前でイチャイチャされるのも困りものだ。
同席した時から分かってはいたが、正直鬱陶しい。もちろん本人達に言ったりはしないが。

「だって、アンタが言ってる事ってほとんど初恋の小学生みたいなんだもの!」
からからと笑って紅が言う。
小学生とは失礼な!…と言いたい所だが、未だかつてマトモな恋愛などした事が無い自覚はあるから、そういう観点から見ればオレは小学生レベルだとしてもおかしくはない。
おかしくはないが、だからといってこれが恋愛感情だという証拠にはならない。


大体俺は、あいつを嫌っていた。

見ててイライラした。
子供だし、
言う事は聞かないし、
言った事の半分も出来ないし、
物覚えも悪い。
忍者学校でおちこぼれだったと言うのも納得だ。
良く卒業できたものだと思う。
部下にするなど、火影の命令でもなければ御免こうむる。

そんな相手に恋愛感情など抱くものだろうか。

抱くわけがない。

抱くとしたらきっかけが必要だ。
何時?何処で?何が?
俺には全く身に覚えがない。



『カカシ先生が、オレを好きになってくれれば良いのに…』


不意に耳に響いた言葉。

月夜に聞いた言葉。

身を包む温もりすら鮮明で、今もありありと思い出せるほどに記憶に焼きついている。



『きょ、今日はイルカ先生が相手してくれるから……だから、せ、先生は……無理して来てくれなくても、良いってばよ?』



泣きそうな声も、表情も、なぜか消えない記憶。

覚えておくほどの事じゃない。大した事じゃない。そのはずなのに、どうして、俺は?




「好きになったら、理由なんて無いもんよ」
いつの間にか考え込んでいたらしい俺を見てニヤニヤ笑いながら紅が言った。さっきまでアスマといちゃついていたくせに、抜け目が無いというか何と言うか…。
しかも、考えてた事もばれてる…のか?

「理由つけて好きになろうなんて、ガキの証拠。好きになったものはしょうがないって諦めて、現状と向き合うのが大人ってもんよ!」
酒も進み、出来上がってテンションも上がり気味の紅が意気込んで言う。
目がチョット座ってる気がするのは気のせいだろうか。
アスマも隣であ〜あ、と溜め息をついている。


「そうねぇ、いっそ…」

突然、紅が椅子から立ち上がる。

何事かと驚いていると、おもむろにテーブル越しの顎を掴まれた。

そして止める間もなく、唇を重ねられる。

横目で見れば、アスマが青くなっている…かと思ったら今度は赤くなって慌てて俺達を引き離した。

「な、な、な、何やってるんだ!!?」

動揺するアスマをよそに、紅はしてやったり顔。

「何ってキスじゃない。ねぇ〜?カカシ」

楽しそうな紅にはお構いなしに、俺は感触の残る唇が気持ち悪くて腕でごしごしと拭う。

すると、それを待っていたかのように紅が俺の手を取った。

「そう!それよ!!」

「「は?」」

俺の嫌そうな声と、アスマのグッタリとした声がハモる。

「私とキスしたって嫌でしょ、カカシ!じゃあ、その子とはキスできるの?」

「「は??」」

俺のうんざりした声と、アスマの冗談だろとでも言うような声が、またしてもハモる。

酔っ払いの行動は突拍子も無いけれど、それはもちろん思考回路もそうらしい。キスできるかで恋愛感情かどうかを確かめるなんて、冗談じゃない。

確かに、紅もだし、アスマなんて当然お断りだ。

嫌いな相手とは出来ないというのは分からないでもない。

だけど、

それで確かめるなんて、

俺を変態にでもする気かね、この酔っ払いは…。



そんな事、出来るわけ……

………ないデショ…

++++++++++

08.11.12
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