◆突発◆

□突発
32ページ/39ページ

▲戻る


さぁさぁと音がする程に雨が酷い。

これでは今日あてがわれていた清掃任務は延期をせざるを得ないだろう。別に俺自身は濡れる事を厭う訳ではないが、俺の受け持っている下忍の子供らはあからさまに嫌そうな顔をしている。

俺としても、無理にやらせて風邪などひかれては面倒だ。

幸い、依頼人もそこまで急ぐつもりで依頼はしていない。この調子なら明日には雨も上がるだろうし、それから清掃活動に勤しんでもでも遅くはない。

だから今日の任務は無し、だ。



『rainy day』





任務の延期を告げると、子供たちは又してもあからさまに喜んだ。

とりあえず自宅待機という事にでもしておくからと帰宅を促がせば、流石というかサクラは自分の鞄から折り畳み傘を取り出した。常に持っているのか、今日の天候の変化を予感していたのか、どちらにせよ準備周到なのは忍者にとって重要事項だ。

その点では、サクラはナルトやサスケよりも頭一つ抜きん出ている、と見るべきか。

もちろん俺も持っている。

となると、ここで問題なのは傘を持っていないナルトとサスケをどうするか、だ。

濡れて帰したっていい。持っていないこいつらが悪いのだから。それに2人とも別段、濡れるのを嫌がっているようにも見えない。走って帰ればさほど濡れないだろう。

「サスケくん!私の傘に入っていかない?」

そういってサクラが決して大きくはない傘をサスケに差し掛ける。

サスケは一瞬驚いて、じっとサクラを確認して、ちらりとナルトを伺って、そんな自分の様子を見てる俺に気付いて慌ててその傘を押し戻す。

「いい。走って帰る」

ナルトの手前、遠慮しているのか、

ナルトにサクラと並んで帰るところを見られたくないのか、

どちらにせよサスケはナルトが濡れて帰る限りは、自分の濡れて帰ろうとするのだろう。なぜかそんな気がした。

ムキになって張り合っているというわけではなく、ナルトに気を使って、というよりもナルトを想って……




猫にしていた影分身の記憶を受け取ってから、どうやらサスケはナルトを必要以上に気にしているらしい事に気付いた。

気付いてみれば、サスケの色々な行動がナルトに起因する事にも気付いてしまった。

そして、それら全てが無性に俺の癇に障るということも。




「サスケ、お前の家はサクラの家と同じ方向デショ。サクラの家まででもいいから、入れてもらえ」

サスケはいきなりそんな事を言い出した俺に驚いて、断る理由を考えていたようだったが、有無を言わさずその肩を押した。

「ちょ、待て!」

「さ、いきましょ!サスケくん♪」

サクラは想わぬ俺の援護射撃にえらくご機嫌だ。別に、お前の機嫌をとりたくてやったわけじゃないんだけどね。

歩き出そうとする2人と反対側で、もう一人歩き出そうとする気配がした。

もちろんそれは残りの一人だ。

「じゃ、俺も帰るってば!」

見れば、サイズの大きめのいつものオレンジの上着を頭に被って今にも走り出そうとしているナルトがいた。俺はすぐにそのナルトの手をとってとめる。

「お前はこっち」

ぐいと引けばナルトはバランスを崩して俺の足に思いっきりぶつかってきた。

どん臭いとは言わないけど、ドジというか、間抜けというか、突然の事に対処するのはかなり下手だ。戦いの最中だったら、そんなミスが致命傷にもなりかねないのに。

本当に、まだまだ未熟だな、と思う。

なのに……もう前ほど、その事に対してイライラしなくなっているから不思議だ。

「お前は俺が送るから」

仕方ないからね、なんて言い訳がましく付け足してみるけれど、そんな事など耳に入っていないかのようにナルトは驚いて目を見開いたままだ。

「……ナルト?」

呼べばナルトは我に返ったように笑顔になって、でもすぐに何かを思い出したようにその笑顔は曇る。

「…無理して、気、使ってくれなくても……」

ナルトは拳をぎゅっと握り締めてうつむいた。

どうやら俺がサクラとサスケに気を使って、残り物のナルトを嫌々請け負ったとでも思っているらしい。むしろ逆なのだが、それをナルトに説明する気はない。

俺はうつむくナルトをそのままぐいっと抱えあげた。

思いの外、幼く軽いその身体にドキリとする。自分はこんな小さな生き物に冷たく当たっていたのかと思うと、怖いとさえ思った。

もちろん、そんな事を顔には出さないけれど。

「この俺の傘に入れないとでも?」

ナルトが逆らえない(逆らわない?)と分かっていながら、わざと冷たい視線を向けてみる。

するとと単にナルトの身体は強張り、視線は俺から逸れて落ちつかな気に彷徨う。

自分はこの視線で、ナルトを見ていたのだ。

こんなに緊張するほどのストレスを与えていたのだ。

ただ、気に入らないという理由で。

それはとても残酷で、でもどこかで俺の歪んだ独占欲を満たしてくれているようにも思った。俺という存在がこんなにもナルトの仲を占めているのだと、暗い喜びを感じていたのかもしれない。

「ナルト、ちゃんと捕まってないと落ちても知らないぞ」

怯えているせいか、なかなか肩に手を回さないナルトに、さっきより少し優しく言ってみる。でもやっぱりまだ怯えているのか、動こうとしない。

俺は諦めて、まぁいいかとそのまま歩き出した。

それ程のストレスを与えてきたのは自分で、それを今ざわざわ思い出させてしまったのも自分だ。

さっきまで笑顔だったのに……。

そう思うと、なぜか胸が痛む気がした。




右手に傘。

左手にナルト。


もっと早く歩こうと思えば歩けたのに、わざとゆっくり歩いたのは、俺だけの秘密。

++++++++++

08.11.15
▲戻る

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ