◆突発◆
□突発
33ページ/39ページ
何が起きたんだかサッパリ分からない。
今日は任務だったんだけど天気が悪くて中止になって、そこに居たってしょうがないから各自自宅待機って事になった。
サクラちゃんはしっかり折り畳み傘を持ってて。
オレはもちろん持ってなくて。
隣を見たらサスケも持ってなくて、オレだけじゃないとほっとしてみたりして。
それで、みんな解散のはずだった。
『till the rain stop』
何でオレってばカカシ先生の腕に抱えられてるんだろうと未だに不思議でたまらない。
サクラちゃんは傘を持っていて、サスケと帰る方向が一緒。
じゃあ一緒に帰りましょうって言うのは分かる。
カカシ先生も傘も持ってて、オレと帰る方向が一緒??
確かカカシ先生って上忍アパートに住んでるんだったから、オレの家とは正確には方向が違う。サクラちゃんやサスケと比べれば確かに同じ方向だけど、遠回りである事は間違いない。
て事はたぶん、これって任務なんだよな。
オレの監視って言うか、最低限の体調管理ぐらいは任されてるのかも。前に野菜持ってきてくれた事もあったし。
任務、か。
まぁ、そうだよね。任務じゃなきゃカカシ先生がオレに近付くわけ無い。
任務でだけでもこんなに近付いてくれたのってすごい事だってばよ。今までこんな事してくれた事無いし。
何だか視線もいつもより優しい気がする。
いや、抱き上げられるまではちょっと怖かった。嫌がってるような、空気がピリピリとオレの肌を刺すみたいで嫌だった。
なのに抱き上げられたら、楽になった。
楽になったって言うのも変だけど、視線が見えないからなのか、ピリピリした空気を感じなくなった。むしろ触れた部分の布越しにでも伝わる体温に、ホッとしてた。
カカシ先生には迷惑だろうけど。
首に手を回せって言われたけど、そんな恐れ多い事出来なかった。
だって、今のこの状況だって奇跡的なのに、これ以上くっついたら今度こそカカシ先生も我慢できなくって嫌になるかもしれないのに。
だったらせめて今のままで居させて欲しい。
これが最初で、たぶん最後だから。
もう少しカカシ先生の温もりを感じさせて欲しい。
回せるものなら腕も回したい。
もっと抱きつきたい。
もっと抱き締めてほしい。
だけど、
「何か喋りなさいよ」
不意にカカシ先生に話しかけられた。
いつもカカシ先生からは必要事項以外、話しかけられたこと無いのに。
そりゃドキドキもしてたし、この幸せをつい夢中で噛み締めてたから何にも喋ってないけど。
でも、いつもオレが話しかけても鬱陶しそうにしてるのに。それで、ここで喋ったら、いつもよりずっとうるさく感じて、やっぱり我慢できなくって嫌になるかもしれない。
だから、黙ってたのに。
「お前が喋って無いと、変な感じ…」
カカシ先生が独り言のように呟く。
だけど、いざ話せと言われても何を言えば良い?
オレはいつも何を話してた?
「そっか、俺はお前の声聞くのは嫌いじゃなかったのか…」
まるで自分で気付いて、自分で驚いたように言う。
それが演技か本気かは俺じゃ分からないけど、本気だったらこれ以上嬉しい事は無いけど。だって、それはつまり話しかけても良いってことだってばよ。
嘘じゃなかったら。
でも、こうして俺に聞こえるようにそういう事を言うって事は、オレがそれを自分の都合の言いように解釈しても仕方ない状況なわけで。
てことは、やっぱり喋っていい??
でも、今ここで何を話せばいいんだってばよ?
「とりあえず」
オレがぐるぐる頭の中で色んな話題を吟味していると、カカシ先生が腕の中でオレの向きを変えて自分と向き合うようにさせた。
その顔のあまりの近さに、オレはすっかり硬直してしまう。
「俺の名前呼んでみて?」
え?と、馬鹿みたいに呆けた顔になってたと思う。
でも、それでよかった。
だってまさか!
その瞬間、カカシ先生が……笑ってくれたんだ。
優しく、ただ優しく。
お願い神様。
今まで神様にお願いなんてした事無かったけど、でもどうかお願いです。
どうか雨がやむまでは、このままで……
++++++++++
00.00.00