◆突発◆

□突発
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カカシ先生にキスされた。

いきなりで何が何だか分からなくて、でも我に返ってますます驚いて、逃げ出した。

悲しくて、涙が出そうで。




『Catch』






カカシ先生は“キスしてみていい?”って言った。

“していい?”という伺いでもなく、“させて?”というお願いでもなく、“するよ?”という宣言でもなく、あくまで実験なのだと、そう言いたかったんだと思う。

それで何が分かるのかなんて、オレに分かるわけも無いけど、それでもあんまりだ。

普通、意味もなくキスなんてしないってばよ。

しかもオレなんかと。

子供だし、男だし、嫌われ者の九尾だってばよ?

オレの気持ち…なんて知るわけ無いだろうけど、知っててやったんだとしたら、もっとあんまりだ。

オレの事なんて好きでも無いくせに。

嫌い、なくせに。

そりゃ最近ちょっと優しいかな…とか、笑ってくれる時があるとか、前よりは嫌われて無いと思うけど、それでもオレにキスする根拠には程遠い。

嫌がらせなんてする人じゃないと思うけど、思うのに、怖い。


キスされて、喜ぶオレを見て哂うの?


そりゃあ、本当なら、普通なら、嬉しいよ。

だってオレってばカカシ先生が好きなんだもん。その先生にキスされてんだもん。喜ばないわけ無いじゃん。

だけど、それが嫌がらせなのだとしたら……

怖いよ、怖くてたまらないってばよ。

分かってる。

本当にそんな事する人じゃないって分かってるってば。優しいとか、いう以前に、そんな客観的に見て何の利益も無いような無駄な事する人じゃないっっていうか…

そりゃ、そんなにカカシ先生のこと詳しいわけ無いけど。

でも、無駄な無意味な事はしないと思う。

そう…思う。

思うけどさ、それ以上に、オレにキスしてみようと思った理由が分からない。

試すって何を?

何で試さなきゃいけないの?

それが何でオレなの?

例えば、男とキスできるか?って試すんなら、オレじゃなくても良い。

例えば、男とキスできるか?って誰かに証明しなきゃいけないとしても、それはオレとじゃなくてもいい。

オレとじゃなくていいんだってばよ。

サスケとだって、シカマルとだって、チョウジとだって、アスマ先生だって、イルカ先生だって良いのに、何でオレ?

たまたま最後まで居たから?

それだって別に今じゃなくても良かったのに、何で今?

何でオレ?



オレだけが違うところなんて、九尾ぐらいだってばよ。みんなから嫌われてるって事ぐらいだってばよ。

それ以外、何にもない。



例えばカカシ先生はたまたまイライラしてて、嫌いなオレが目の前にいて、オレで憂さを晴らそうと思うかもしれない。

下手にキスする理由を考えるより、そっちの方がよっぽど頷ける。

だから、怖い。

聞いて「そうだ」と肯定する言葉を聞くのが怖い。その瞳を見るのが怖い。

だから逃げた。

他にどうしたら良いのか分からない。

好きだから、好きで好きで堪らないから、悲しくて、怖くて。



無我夢中で走って何とか家に辿り着いた。

動揺と急激な運動で足はガクガク、膝が笑ってる。それでも何とか階段を上がって、最上階の自室を目指した。

カカシ先生が追ってくるわけ無いと分かっているのに、一応“逃げた”という自覚がある事もあって、背後に足音が無いか、気配は無いかとドキドキしてしまう。

追ってくるわけない。

追う理由はない。

嫌がらせならば、あの場で終わりだ。下手に口止めなんてしなくても、男にキスされたなんて言いふらす男が居るわけないのだから。

はぁ、はぁ、と荒い自分の吐息だけが廊下に響く。

ポケットから鍵を取り出して玄関を開けようとするけれど、こちらもガクガクで、うまく鍵穴に入ってくれない。ガチガチと強引に挿そうとすればするほど、鍵はあらぬところに当たってしまう。

「情けないってば…」

忍者なら、強い忍を目指すなら、こんな事で動揺するな。冷静にならなきゃいけないってば。

オレは一旦鍵を穴から離すとして、大きく深呼吸。

目を閉じて、

ゆっくりと、

呼吸を整えて、


もう一度大きく息を吸った瞬間、時間が止まった。何かがオレの動きを止めたのだ。


「つ、かまえた…」


動けないのは、背後からぎゅうときつく抱き締められてるから。

耳元に聞こえた声はよく知った人のもの。よほど急いだのか、はぁはぁと、さっきのオレ以上に息が上がっている。

何で来たの?
何しに来たの?
全然わかんない。頭が混乱する。
カカシ先生ってば何考えてんの?
何でこんな事するの?
何がしたいの?

聞けば、答えてくれるの…?


オレは…どうしたら、いいの……?

++++++++++

08.11.26
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