◆突発◆
□突発
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俺は、執着している。
束縛したいと思っている。
独占したいと思っている。
今までに感じたことのない気持ち。その気持ちの名はきっと………
『Love』
身体を震わせて、瞳に涙をためて、ナルトは体中で俺を拒絶している。嫌がっている。
俺を好きなのだと思っていたのに。
猫に変化した自覚の無い俺は、ただ純粋にナルトに好意を抱いた。何の柵もなく、まるで、自分が経験しなかった子供の初恋を体験し直すかのように。
身体ばっかり大人の捻くれて大人げない俺は、中々ナルトへの行為を自覚できなかった。
自覚できないながらも抱いた不可解な感情への苛立ちから、その感情を悪意や敵意と信じ、ナルトに辛く当たってきた。だって俺をイライラさせるのは、ナルトなのだ。
それは間違いなかった。
「何でキスしたか?紅が、キスしてみれば好きかどうか分かるって言ったから…だよ」
これの言葉を聞いてナルトの目が見開かれる。
それはそうだろう。普通、そんな馬鹿馬鹿しい真似が出来るわけが無いのだから。
「何で追い掛けてきたか?そんなの分からない。体が勝手に動いた」
言って、はぁ…と溜め息をつく。
あの時、ナルトに逃げられた瞬間、頭が真っ白になった。真っ白になって、どうしたら良いのか分からないと思ったのに、体が勝手に走り出した。
感覚が勝手にナルトの気配を探した。
意識せずとも、ごく自然に、当然の事のように。
「何で抱き締めたかって?こうしなきゃ、逃げる……」
言いかけて、そんなの言い訳だ、と思った。
本当はそんな理由じゃない。もっとシンプルで明確な理由があるくせに。
「……抱きしめたかったからデショ!理由なんて分からないよ。体が勝手に動いたんだから」
子供っぽい答えだと思ったけれど、事実なのだから仕方ない。嘘をつくよりはこっちの方がよっぽど良いだろう。
イライラするんだ。
だからもう、考えるのが面倒くさい。この際だからと、言いたい事も全部言ってしまえばいい。後の事だろうが、ナルトがどう思おうが、もうどうだって良い。
どう思ったとしても、俺はもう離す気はない。
泣いても、嫌がっても、絶対に。
「涙だって一緒。泣いてたから、涙を拭ってやったようなものデショ。理由なんて聞かれても分かるわけない。」
そう言いきってまた強くギュッとナルトを抱き締める。
腕の中の体温に、カーッと血の上ったようだった感情が沈静化していくのが分かる。ナルトを抱き締めているという事実が、俺を穏やかにするらしい。
ナルトは呆然と俺を見上げていたけれど、驚きの所為か、いつの間にか震えは止まっていた。
それだけでも、良かった、と安堵する。
ふとナルトのカを見れば、瞳に涙をためたまま、なぜか真っ赤になって俺を見ていた。何?、と問えばますます頬を高潮させる。
「どうしたの?」
手は離したくないから、コツンと額をぶつけて聞いてみる。
真っ赤なナルトは額も熱い。
「その笑顔、反則だってば……」
「笑顔?俺…、笑ってた?」
ナルトの表情がくしゃりと歪んで、堰をきったように涙が行く筋も流れて落ちる。でも視線だけはじっと俺を捕らえたまま動かない。
「そんな優しい笑顔で見られたら、誤解しちゃうってばよ?都合の良いように、考えちゃうってばよ?」
どう、考えるのがナルトに都合がいいのだろう?
オレはどんな顔してる?
優しい笑顔?本当に?そんな顔でナルトを見つめることが出来てる?
誤解?都合が良い?何が?どの答えが?
それはもしかして、俺にとっても都合が良い答え?
「俺は、お前を見てるとイライラしてた。それに、お前が他の誰かと居ると、もっとイライラした。」
俺の言葉を聞いて、途端にナルトの表情が曇る。
「なのに、目が勝手にお前を追う。ますます俺はイライラしてた」
ナルトが腕の中で怯えたように身を硬くする。
「だけど」
俺は少しだけ首を傾げると、そっとナルトに口づけた。驚いたらしく、目を見開いた振動でまた何筋か涙が零れた。
「こうして抱き締めてると、ホッとしてる。イライラがすっと消える。理由は良く分からないけど…」
またナルトの瞳が見開かれる。
たださっきまでと違うのは、その次に浮かんだ表情が笑顔だということ。
「……大人のくせに、分かんないんだってば?」
「うん、大人なのにね。だから、ナルトが教えてくれる?」
ナルトが教えてくれた。
ナルトが気付かせてくれた。
俺にも、こんな感情があったのだと。俺でも、そんな感情を抱けるのだと。
だから教えて。
その気持ち、
その感情の名前を……
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08.11.28
この辺りで一区切りでしょうか。長々と、お読みくださってありがとうございました★