薔薇乙女小説の時間

□君のいない日
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金糸雀の話はこうだった。
彼女のミーディアムで無類のドールマニアであるみっちゃん。
そのみっちゃんが週末の休日を利用して、明日開かれるドールイベントに参加するのだという。
自分の作品として写真を展示する予定なのだが、イベントはかなり大規模なもので、撮影する写真も力を入れたものにしたいらしい。
そこで真紅をモデルに写真を撮りたがっているのだという。
「今日はカナの家に来て、みっちゃんを手伝ってあげて欲しいのかしら!」
一晩、我が家にきて写真の撮影を手伝って欲しい。
ねだる金糸雀に、嫌よとお茶を飲みながら真紅は目もくれなかったのだが……。
放っておけば、金糸雀もしばらくすれば諦めるだろうと真紅は思っていた。
だが、今日の彼女はいつも以上に根気があって手強い。
その理由にはミーディアムであるみっちゃんを思う、金糸雀の気持ちの強さにあった。
彼女は先日の夜、明日のイベントにみっちゃんが持っていくつもりだったドールの衣装を、ちょっとしたミスからゴミ箱送りにしてしまっていた。
彼女はそのお詫びをしたかったのだった。
「カナー、衣装のことは気にしないでね。それよりも貴方に怪我がなくてよかったわ」
そう言って申し訳なさそうにする自分を慰めてくれる、みっちゃんを金糸雀は思い出す。
大切なドールの衣装を台無しにしてしまった金糸雀を、みっちゃんは責めるようなことはしなかった。
それに彼女自身は真紅の写真を撮りたがってはいたものの、わざわざ我が家に来てまで、写真撮影の協力をして貰いたいとは思っていなかった。
それでも金糸雀は桜田家へとやってきた。
自分が彼女へできることをするために。
金糸雀はみっちゃんが大好きなのだ。
だからこそ、今日の金糸雀は簡単には引き下がらなかった。
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