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□始まりはまぼろし 後
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「だったら何だってんだい」

甘寧を睨み付ける。きっとたいした迫力などないだろう。

「俺も好きなんだよ」
「……誰を」
「凌公績を」

苛々する。甘寧と付き合うのは神経がすり減る。
何故自分がこんなに悩まなければならないのだ。

しかも、先程から鼓動が高鳴りっぱなし。実に煩わしい。
別に、奴を意識している訳ではないのに。好きでもないのに。

「……あーもう」

この部屋に滞在し続けると頭がおかしくなりそうで、凌統は立ち上がって扉へと歩み寄った。

「で、お前の返事はどうなんだよ」

無断で去ろうとしても、甘寧は特に咎めない。代わりに返事の催促をしただけだった。

(面倒臭いな……)

言ってしまえばいいのだ。そうすればこの微妙な感情から解放されるだろう。

「あんたの思う通りだろうよ」

望む言葉は素直に与えてやらない。天の邪鬼のためか、悔しいがためなのか。

そう言い残して、凌統は彼の邸を出て行った。






(せいぜい、俺を思うように出来るように頑張りな)

好きとは絶対に言ってやるものか。






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