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□引き止める夢
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「りょ、と……っ」
「あんたなんか死ねばいい」

そう吐き捨てて俺は甘寧の首を更に強く絞める。脈の動きを直に感じて俺の手は喜んでいるようだった。

もう少しで全てが停止する。脈動も、心臓の活動も。こいつの全てが俺の手で。

仇であるこいつを殺せる時がようやく訪れたのだ。そう考えると、酷く気分が高揚してくるのだった。

気管が狭まり奴の顔が滑稽に歪む。段々呼吸が出来なくなっていく甘寧。俺はそれを見て満足したように微笑んだ。




そんな、恐ろしい夢。

「っ、は……」

悪夢だ。しなもかなり質の悪い。飛び起きると、身体が汗ばんでいた。

ふと外を見ると、豪雨だった。通りでこんな夢を見る訳だ。雨には嫌な思い出しかない。

父上が死んだあの日の。
それは忘れた筈なのに。綺麗さっぱり流した筈なのに。あの日の古傷は今もなお消えてくれはしない。

「どうした?」

物音で目が覚めたらしい甘寧は上体を起こし、俺の様子を心配していた。現実の方は、生きている。

「甘寧……っ」

柄じゃない。柄じゃないがすがりつくように抱き付く。気持ち悪いってくらい分かってる。

耳をすませると、どくん、という心臓の音。しっかりと動いていた。自分の存在を証明するかのように。
安堵する。

「あんたを殺す夢を見たんだ」
「……へえ」
「あんたの首を絞めて喜んでたんだよ。……過去のことはもう忘れた筈なのに。あんたを愛しているのに」
「凌統」

甘寧が俺の名前を呼んだ。窘めるような、包み込むような、至極優しい声音で。何故か安心してしまう。

「夢は夢、現は現だろ。お前は夢ん中で俺を殺したらしいが、実際死んでねえ。それだけだ」
実に単純な考え方だ。それに毎度助けられている俺はもっと単純なんだろう。

「それでいいじゃねえか。それとも何か、てめえはそんな下らねえ夢一つに左右される程の弱い男だったか?」

俺がこのような夢を見る度に、甘寧はいつも言ってくれた。俺がいつまでも引きずらないように。それでも見てしまうものは見てしまう。仕方がないが、その度に俺は、今日で終わればいいと願うのだ。いつまでも甘寧に迷惑を掛けていてはいけない。

「いいからもう寝ろ。後はそんな夢見ねえだろ」
「……ああ」

本当にこれで終わればいいな。

窓から外を見ると、あれ程強く降っていた雨は降り止んでいた。







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