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□謹賀新年SS
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外に出ると、白い粉が舞っているのが目に入った。

酔いを覚ます為に出てきたのだが、いいものを見れた、と凌統は優越感に浸る。年末から年始までぶっ通しの宴でまだ馬鹿騒ぎをしている連中はきっと、空を浮遊するこの美しい存在に気付いてなどいないのだ。

だが酔いを覚ますどころではない。今が冬だということをよく考慮せず、おもむろに外に出てきた自分が馬鹿だった。これ寒さ……風邪を引いてしまう。

肌に刺さるような寒さを感じただけで風邪を引くようなやわな身体ではないのだが。

「父上……」

儚く舞い降りる雪の姿が、今は亡き父を思い出させる。

凌統の父は、夏口の戦場で討たれた。武将なのだから当たり前のことだ。武人として戦場で散り、思い残すことはなかっただろう。

心残りや不安があるのは、息子の凌統の方だ。

齢15で親を亡くし、その後父の軍を継いだ挙げ句…………彼の憎き仇である、甘寧が孫呉に降ってきたのだから。

当然、凌統は甘寧を敵視した。つっかかって暴動を起こすことは稀ではない。甘寧が投降した後の宴では、剣舞を舞うふりをして彼を刺し殺そうとした程だ。

それだけ父の死に衝撃を受け、甘寧を憎んだのだ。

甘寧を殺そうとする凌統を、彼の男を推薦した周喩や呂蒙が必死で止めた。だが凌統はそのような制止など聞かない。

「……色んなことがあったよなあ」
「よっ、凌統! 何やってんだ? 風邪引くぜ」
「甘寧……」

現れたのは、憎き仇の筈の甘寧その人だった。

「あんたこそ、何しに来たんだい?」
「気付いたら、お前居なかったからな。探しに来た」
「……ふうん」

凌統の顔は、昔と比べ酷く穏やかだった。

甘寧と和解をするのに、相当の労力と時間と精神を使った。何処で道を踏み外したのか、戦友どころか恋仲になってしまったのだが。

「お、すげえなあ、雪!」
「あんたに見せるには勿体無いっての」

天の邪鬼な性格が災いし、つい心無いことを口にしてしまう。

凌統の性格を把握しているため、甘寧は特に何も言わず、雪の降る様を眺めながら凌統の頭をぽん、と叩くだけだ。

またそれを馬鹿にしていると受け取った凌統は反抗しようとしたが。

「……仕方ないね」

正月くらい多目に見てやろうという、随分な態度でそれを許したのだった。


「今年も宜しくな、バ甘寧」
「おう!」






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