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□始まりはまぼろし 前
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「軍師殿は誰かに告白されたり、接吻された夢を見たことありますか?」

時は変わり昼過ぎの午後。凌統は若き軍師、陸遜の室に来ていた。

決してサボりではない。

「は? ええまあ……ない訳ではないですが」

陸遜は部屋の中の書簡や書物を整理しながら言った。大変そうだが、凌統は手伝おうという様子は一切ない。

「その相手が、男だったら?」
「気の迷いでしょうね」

陸遜は淡々と答える。整理に集中していて、話には興味がなさそうだ。

だが、彼に爆弾投下されるのはその次だ。

「じゃあ、それが自分の仇だったら」

陸遜は思わず、持っていた書物をバサバサっと床に落としてしまった。

「凌統殿、まさか……」

まさかという程でもないが、そのまさかだ。そのせいで凌統は朝から気分が沈んでいるのだ。

甘寧とは既に和解をしている。それだけマシというものだ。

「その夢は早く忘れた方が良いでしょう。執務にも影響しますし」
「そうします……」

陸遜からそう受けた凌統は、訪れた時と同じくして、首を垂れた様子で帰っていった。

その帰り際。運の悪いことに、凌統は彼の仇と鉢合わせしてしまう。


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