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□拍手礼文集
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現代同居甘凌
バレンタインver.
「なあ凌統」
「何」
「バレンタインにチョコくれ」
「嫌だ」
最近甘寧はこの催促ばかりしてくる。はっきり言って、ウザい。何回も断ってんのに。だいたい、男同士でチョコとか、キモいじゃん。
「俺ら恋人同士じゃねえのかよ」
しゅんとなるガタイの良い男。ちょっぴり酷いが、これまた気持ち悪い情景だ。それをちょっと可愛いと思ってしまう自分はもっと気持ち悪い。
「お前が嫌だってんなら別にいいよ」
「は?」
「どうせ俺のことなんか嫌いなんだろ」
「え、ちょっと、」
そこまで言ってないし。
そう言わないうちに甘寧は部屋から出て行ってしまった。
「しまった……」
傷付けるつもりはなかったのに。直ぐに諦めてまた催促してくると思っていたのに。極悪面して、意外にデリケートな男だ。
バレンタイン前日。あのことがあった日から、甘寧は急によそよそしくなった。必要時以外話をしないし、おはようおやすみ等のあいさつは流石にするが、何よりあちらから話し掛けてこなくなったのだ。あいつ意味分かんねえっつうの。今までしつこく言い寄ってきたくせに、いきなり諦めてそのうえ無視とか、……ありえない。
……つうか、何で俺こんなに悩んでんだよ。一応恋人同士だけど、あいつのことなんか別に気にかける必要なんか……。
「あーもう!!」
考えるのも苛々する。仕方ない、チョコくれてやるか。
そしてその次の日。つまりバレンタイン当日。俺は買い物袋をテーブルの上に置き、珍しく台所に立った。正直、料理は苦手だ。
チョコレートなら溶かして固めるだけだし。それくらいなら俺でも出来るだろう……と侮ったのがいけなかった。
「あー焦げてるっ」
チョコは鍋にかけるものではなく、基本は湯煎にかけるものだと知ったのはその後だ。
「まあ、何とかなるだろ」
取り敢えず型に流し込む。焦げたせいもあって量が少し足りない。
後は冷え固まってからのお楽しみ。甘寧がバイトから帰ってくるまでに出来るだろうか。
「ただいまー」
甘寧が帰ってきた。玄関へ向かう。
チョコのラッピングもして準備万端なのは大変いいが……。
タイミングと切り出し方を考えていなかった。
「お、かえり……あのさ、話あるんだけどちょっといいかい?」
黙ったままの男と一緒にリビングへ移動する。テーブルに向かい合って座った。
「何だよ?」
「……こないだのことなんだけどさ。あんたチョコ欲しいって言ってたやつ」
甘寧は俺から視線を逸らさずに黙って聞いていた。
「俺が嫌って言って傷付いたんならごめん。まさかそこまでへこむとは思ってなかったんだ……実は満更でもないし」
そこまで話すと、後に隠し持っていたチョコを差し出す。甘寧はそれを凝視していた。
「これ。味は保証できないけど」
溶かして固めただけなのに、保証出来ないっていうのはおかしいかもしれない。好みの問題だけど。
「……」
無言。許して貰えないのだろうか。急に不安になった。
「凌統」
「何……っ」
一瞬、頭が真っ白。
まさかの、テーブル越しに抱きしめられてしまった。それ程嬉しかったってこと?
「ちょ、ちょっと」
「チョコそのものが欲しかった訳じゃねえ、お前から貰ったのが嬉しいんだ。ありがとな」
そう言われると何か居心地が悪い。柄にもなく照れてしまう。
甘寧は包装を解いて、チョコを一つ口に含んだ。そして一言。
「……甘え」
「そりゃ当たり前、チョコなんだから……ん」
不意打ちの、口付け。甘くてほろ苦い、チョコレートの味がした。
仲直りのキスは、チョコの味。
バレンタインな甘凌。
……。
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