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□ペース
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「ついてくんなって言っただろ」
「何で駄目なんだよ。別に問題ないだろうが」

精悍な顔つきで見つめられる。それから逃れるように、凌統は走るスピードを少し上げた。墓地はとっくに過ぎていた。

「おい」
「! 急に手握んなってのっ」

背後から、大きくて無骨な掌が凌統のそれを包む。思わず驚いて転びそうになってしまった。

「お前、手ぇ冷てえな」
「はあ、そうですか……つうか手放してくんないかい? 走りにくいんですけど」

理由を作って放してくれるように頼んでみたが甘寧は聞いていないようで、そのまま凌統の手を握ったまま走り続けている。

(全く)

こいつはどんだけ俺のことが好きなんだ、と自惚れではなく少々気恥ずかしくなる。早朝だから人があまりいないのは幸い、男二人で手を繋ぎながら走っているのは、周りにどう映っているのだろう。幼稚園児や小学生でもあるまい。ただの友達同士には見えないことは確かだ。

畑仕事をしているお婆ちゃん方に挨拶をすると、「仲いいねえ。いいばって嬢ちゃん、此処らは蜂多いがら気をつけれ?」と、温かい笑顔で言われた。

「…………嬢ちゃん?」
「お前のことじゃねえか?」
「俺女じゃねえし!!」
「しゃあねえだろ、相手は老眼の婆さんだ。身体細くて髪長けりゃ、そう見えると思うぜ」

俺細くないっつうの、と小さく呟いてみたが、甘寧には聞こえないようだった。

「ところでお前補修行ってっか?」
「まあ、少しだけね。課題あるけど暇だし。あんたは?」
「まだ一回も行ってねえな」
「マジで? あんた成績は下から数えた方が早いのに?」
「うっせえな! お前だってそうだろうが」

手の温もりにも馴れて、二人で他愛もない会話をする。それっきりで山の方角を見ると、殆ど顔を見せた太陽の光があまりにも眩しくて、目が眩んだ。

目を細めたその時、耳の近くで、ブーンという低い羽の音がした。

「うわっ……!」
「おい、」

そういえばさっきお婆ちゃんに言われたな、と驚いて蜂から避けようとする。しかし手を繋いでいたせいもあり、運悪くバランスを崩して足首を痛めてしまった。
凌統を驚かせた主は、何事もなかったかのように反対方向へと飛んでいった。

「いって……」
「大丈夫……、じゃねえな。ちょっと見せてみろ」

地面に座ったまま、ジャージの裾を捲る。捻った足首は赤く腫れていた。


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