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□ペース
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「重傷みてえだな」
「本はと言えば、あんたが手離さないからバランス取れなかったんだろ」
「俺のせいかよ! つうか、蜂ぐれえで驚くんじゃねえよ」

口論になり言い返そうと前に身を乗り出すと、足首に痛みが走った。思わず患部を押さえる。

「……しゃあねえなあ、その脚じゃ走れねえだろ。俺がおぶってやる」

有無を言わせぬように、甘寧はしゃがんでこちらに背を向ける。ほら、と急かされると逆に申し訳なく思ったが、相手の肩を掴んだ。



「軽ぃなあ。お前ちゃんと飯食ってんのか?」
「あんたが筋肉つきすぎで重いだけでしょうが……ってかケツ触んな!」
「いってえ! 悪ぃ悪ぃ、ついうっかり」
「嘘、わざとだろ」
「は、自意識過剰じゃね? 俺が男のケツわざと触る訳ねえ……痛えって、おい!」
「自意識過剰? 前科がある野郎に言われたくないね」
「ひでえ!」

甘寧は二度も殴られた後頭部をさすりながら、首を捻って後ろの凌統を見た。凌統は、殴った方も痛いんだぜ、拳を見せながらと満足そうな顔をしてみせた。

「初日に脚怪我って……ついてないってのー」
「まあ気にすんなよ。安静にしてれば直ぐ治んだろ」
「……そうだけどさ。暫く走れないし」
「残念だな。俺と一緒に走りたかったんだろ?」
「っは!? だ、誰もそんなこと言ってねえっつうの!」

また甘寧の後頭部を殴る。三度目だ。

「だっからお前、すぐ殴んなって! 脳細胞死ぬだろうが!」
「もともとあんたに脳細胞なんてないだろ」

まだ頬が熱い。まさか純情な乙女でもあるまいし。

「そんなに嫌なら、俺ここに置いてけば?」
「ああ、その手があったか。そうすれば殴られねえな」
「…………」

自分で言っておきながら、何故か悲しくなってしまった。それが出ないように、ついで紅い顔も隠すように、甘寧の肩に顔をうずめる。

「嘘だって。本気にすんなよ。怪我してる公績を置いてけぼりに出来る訳ねえだろ?」

その言葉に、再び心臓の鼓動が大きく響く。

(……この男は)

自分をどれだけ好きにさせれば気がすむのだろう。朝のランニング如きで何度もこんな調子になっている。

「んな恥ずかしい台詞吐くなよっ」
「どこがだよ。お前を心配してやっただけだぜ」
「……あー、もういい。疲れた」
「は?」
「寝る」
「は!?」
「そういえば俺眠かったんだよね。おやすみ」
「おやすみ、じゃねえだろ! 寝られたら困る、お前んち着いたらどうすりゃ……もう寝てるし!」

走っているのならまだしも、人におぶられ揺られていたら、本当に眠気が襲ってきたのだ。

凌統は完全に身体を預ける。一人騒ぐ甘寧の声を聞きながら、ゆっくり眠りに入っていった。





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