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□Trick or Treat!?
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「現地では、ガキ共が妖怪に仮装して各家を回るらしいぜ。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ! ってな」
「へえ……」

タダでお菓子が貰えるなんて、羨ましいねえ。こっちにもそういうの作ればいいのに。

「何見てんだよ」
「いや、別に? ただ……」

先程から甘寧がニヤニヤしながら俺を見てくる。何か良からぬことを考えているな、と思ったのだが。
腰に腕を回され、引き寄せられる。一瞬だった。

「菓子を俺にやるのと、イタズラされるの……どっちがいい?」

不覚。冗談抜きで、くらりときた。
耳元で囁かれる、低くて甘い声音。
鼓膜が犯されている感覚。身体が甘く痺れる。女なら一発で落とせるだろう……いや悔しいが俺も、腰砕けになるところだった。正直言ってこいつ、男前だからな。
何盛ってんだよこいつ!
少し悪戯心が芽生え、切なそうな声で、上目を使って相手の顔を見つめる。

「……イタズラ、がイイ」
「凌統」

俺を抱き寄せたまま、耳朶を噛む。甘寧の手が俺の尻に回ろうとしたとき――俺はそれをはたき落とした。

「って言ってやりたいところだけどね。あ、生憎明日は出仕だし、あんたにくれてやる菓子もあるんだよ」
「ちっ、残念だぜ」

惜しむような声を背に、俺は邸の中に戻る。当然かのように甘寧も付いてきた。
そして一つ菓子を渡すと、奴はどこからか何かを取り出した。
今度は何だ?

「な、なにそれ」

右手には黒で纏められた女物の衣装(何故か帽子とほうきもある)、左手には只の包帯。

「なにって、お前も仮装すんだよ」

つまりこうだ。魔女とミイラ、どっちがいいか、ってこと。
何で俺がこんなことしなければならないんだ。魔女って……普通女の人がやるよな? それに、ミイラって包帯巻くだけか!?(丈夫さに問題あり)
明らかに嫌そうな顔をしてみる。だが甘寧な笑顔で衣装を差し出したままだ。

「あ、そういや俺急用思い出し」
「待てよ凌統」

この場から逃げようと(っても自分の邸だった)背中を向けて脚を進めようとしたが、後ろからガシッと肩を掴まれてそれは叶わなかった。

「逃げる気か? 男が廃るぜ」
くるりと向きを変えられる。相変わらずの(恐ろしい)笑顔だ。……というか、あんたに抱かれてる時点で、男としての自尊心はボロボロなんですけど。

「覚悟は出来てるよな、凌統?」



その後、使用人に見守られる中俺たちの激しい攻防が繰り広げられた。結局押しに負けたのは俺の方で……包帯でぐるぐる巻きにされ、ミイラになっていた。女物の衣装はさすがに堪えられず、そっちにしたのだが。

「よく似合ってるぜ」
「そりゃどうも……」

包帯ぐるぐる巻きが似合っても全然嬉しくない。魔女とミイラ以外に何かマシなものはなかったのだろうか。
それにしても、包帯だけでは何か不安すぎる。下着の上からただ巻かれたのだ。いつ解けてもおかしくない。


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