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□クリスマス甘凌
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その夜。何だかワクワクして寝られない俺は同室の甘寧と話していた。二人とも布団を頭から被りながら少し夜更かししていた。
「ねえ」
「何だよ」
「サンタさん、見てみたくない?」
すると甘寧はきょとんとした。サンタさんなんているもんじゃないと思ってるから、俺が言ったことがおかしかったのかな。
「いないから無駄じゃねえの?」
「いるよ。俺が証明してみせる!」
動き辛い布団の中で自分の胸を叩く。甘寧に、サンタさんは絶対にいることを分かってもらうんだ。
でなければ朝枕元にあるプレゼントは誰が置いていってるのか、という問題だ。
二人で睨み合う。暫くすると甘寧は諦めたのか、小さく息をついた。
「仕方ないな……付きやってやるよ」
「やった! じゃあちゃんと隠れてよう」
サンタさん本人に見つかってしまっては折角の作戦が無駄になってしまう。さっきより深く布団を被り直すと甘寧はまたため息をついた。そういえばため息をつくと幸せが逃げていく、って聞いたことがある。
「あーさみい」
「冬だし、しかも夜だからね」
甘寧が隣の布団の中で蠢いてこっちを向いた。縮こまりながら俺も甘寧の方を見る。いつの間にか指先が冷たくなっていて息を、はーっと吐きかけると周りが白くなった。暖房は今の時間帯はつけていないから、部屋の中はすごく寒かった。
「そっち行ってもいいか?」
「うん……どうぞ」
甘寧側の方の布団を捲ると冷たい空気が流れ込んできて、思わず身を震わせる。だけどすぐに甘寧が入ってきて、さっきよりも断然暖かくなった。
「お……、一人より二人の方があったけえ」
俺一人の体温では十分に温かくはなかった布団がだんだんぽかぽかしてくる。甘寧は俺より体温が高いから、湯たんぽ替わりになって便利だ。
「甘寧は本当に、信じてないの?」
「うん。プレゼントなんか貰ったことないから分かんねえんだって」
「じゃあ今日はきっと貰えるよ」
不思議そうな顔をして、布団の中で甘寧が手を擦りあわせた。
「何で?」
「何で、って……」
よく分かんない。でもきっと、甘寧は根が良いから(昼間は散々言ったけど)サンタさんはどこかでちゃんと見てくれている筈。
納得させられる理由はないけど、俺は確かにそう思う。
「俺が言ったらそうなの! 今夜は貰えるよ」
「何だよ、それ」
俺が頬を膨らませながら言うと、甘寧は小さく笑った。また息が白くなった。
鼻先が触れ合う程、近い。お互い寒くて身を寄せ合っているせいだ。甘寧が俺に腕を伸ばし抱き締めてくる。
「お前、抱き心地いいな」
「俺、抱き枕じゃないよ」
ぎゅうっと締められて少し苦しい。でも暖かいからよしとする。
抱き締められたまま何となく窓の方に振り返ると、静かに雪が降っていた。窓の外は全部白色だ。サンタさんもこの大雪の中ソリに乗ってやってくるのかな。
「甘寧、すごい雪だよ! 明日積もってるかも。皆で雪合戦できるね……甘寧?」
反応がなく不思議に思って体勢を元に戻すと、甘寧は寝息をたてて眠っていた。
「寝ないって言ったのに……」
甘寧が寝ちゃったら、サンタさんが居るっていうことを証明できなくなる。無理やりにでも起こそうかと思ったけど気持ちよさそうに眠る甘寧の顔を見ていたら、それは出来なくなった。
こうなったら俺一人でもサンタさんをこっそり見てやる。でも夜も結構更け……だんだん眠くなってきた。
寝ちゃ駄目だ。自分にそう言い聞かせるけど睡魔はすぐに去ってくれるはずもなく、俺もゆっくり瞼を閉じた。
「懐かしいねえ」
小さい頃はサンタクロースなんて信じてたっけ。
今までのクリスマスの思い出の一つを掘り起こし、凌統はベッドの中で小さく笑った。反対側の壁のベッドには甘寧が横になっている。
もう大人になってしまった自分たちには、遠い昔の夢だ。でもそれさえも愛しく感じる。
「お金置いてってくれないかねえ……」
「んな現実的なもんくれねえだろ。それに俺ら素行悪ぃし」
「それはあんただけだっつうの」
アパートの大家に家賃を払うのと食費、その他支出で手一杯の状態なのだ。バイトだけでは贅沢も出来ない。
凌統が溜め息を吐くと甘寧は小さく苦笑した。
「そっち行っていいか?」
(あの時と同じだ。俺の方が寒がりな筈なんだけど、ね)
応答を待たずに甘寧は自分のベッドを出て凌統のベッドに無理やり入り込んできた。あの頃とは違い、すでに成人した男二人が一つのベッドに入るのは流石に狭い。凌統が窮屈そうに身じろぐと、甘寧は身体を寄せてきた。
「……近いんだけど」
「何だよ、お前昔は文句言わなかっただろうが」
昔と今は違う。あの頃はお互い無邪気に笑っていられたが、目と鼻の先に精悍な顔が在っては、何も言わない訳にはいかないだろう。
凌統が目を逸らすと甘寧が腰に手を回し抱き寄せてくる。窮屈な中まともに逆らうことも出来ず、それを甘受した。
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