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□かわること
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意識が朦朧としている中、遠く彼方から小さく音が聞こえる。機械を通した人の声だ。……そういえばテレビを付けたままだった気がする。だが今の俺にはその電源を消す気力もない。兎に角、眠いんだ。

今までよりも深く腕に顔を埋めると、自分の涎だろうか……少し湿っている。更に唇の周りも濡れていたので無理やり腕に拭おうとしたところで……肩が強引に揺らされた。

誰だ、俺の安眠を妨害するのは。
誰のものか分からないが、肩の手を振り払おうと炬燵に深く入り込むと、先程よりも強く揺さぶられた。

「おーい、起きろ!」

聞き覚えのある声で、耳元で大声で叫ばれる。半分意識が眠っているとはいえ、溜まったものではない。

「一緒に神社行く約束だったろうが! ったく……」
「あ!?」

約束と聞いて、がばっと勢いよく頭を上げる。まだ視界がぼやけていてよく前が見えないが、突然俺が起きて驚いたのか相手は「うおっ」と声を上げていた。

ゆっくりと相手に首を巡らす。

「…………か、んねー……あんた顔が変」
「お前、大丈夫か……?」

大丈夫じゃないかもしれない。目の前の甘寧の顔が歪んで見える。

「眠い、死ぬ」
「何訳分かんねえこと言ってんだお前。さっさと準備しろ!」
「うわっ」

無理やり腕を掴まれその場に立たされる。膝が笑ってしまいそのまま崩れようかと思ったが、甘寧に体重を支えられている限りそれは無理だった。

大晦日、いや元旦に甘寧と神社へ初詣に行く予定だったのだ。男二人で寂しく。普通は男女のカップルで行くものじゃないのか。

それで甘寧が迎えにくる前に俺は睡魔に負けて眠ってしまった、という訳か。

「まず顔洗ってこい。涎……すげえぞ」

今まで寝ぼけていた俺は、それを聞いてすぐ我に返った。こんなみっともない姿、見られていたのか……いや、今更それもないが。

「言われなくとも……」

少しヨタヨタしながらも急いで洗面所へと走る。蛇口を捻って冷水で顔を洗うと、一気に目が覚めた気がした。


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