text

□かわること
2ページ/4ページ



「そういえば、何であんた勝手に上がり込んでんだよ。不法侵入?」
「俺何回もインターホン鳴らしたぜ? それでも出てこなかったから上がったんだよ」
「……そうかい」

取り敢えず、俺が悪いらしい。約束があったのに寝ていたし。

「ま、おかげでお前の可愛い寝言聴けたしな」
「は……!?」

甘寧が悪戯っぽくにやりと笑んだ。それを見ると血の気が引いていく気がした。

「甘寧早くーってな。待ちきれなかったのか……ぶ」
「俺はそんなこと言ってないっつうの!!」

そこら辺にあった適当なクッションを奴の顔面に投げつけ、俺は自分の部屋に逃げ込んだ。外は恐らく極寒だろうから着替えるためでもあるが……。

絶対にそんなことは言っていない……と思いたい。多分甘寧はからかってるだけなんだろう、うん。

その後甘寧が何やら部屋の外で騒いでいたが、俺は無視して着替える。




「THE・豪雪!」

静かな夜に俺の叫び声がこれでもか、という程響く。初詣にはいかずに眠っているご家庭には近所迷惑だ。

どこを見ても辺り一面真っ白で、それが音を吸い取っているのかと思われた。街灯の光もよく映える。

「さみいー。有り得ないこの寒さ」
「我慢しろよ。俺は玄関前で数分も黙ったままだったんだからな」

甘寧はダウンジャケットにマフラーという、真冬、しかも真夜中に外出するには無理のある格好だった。こっちは中に何枚も着込んで、更に手袋までしているのに。流石に股引までは穿いていないが。

「あんたは寒さなんか感じないだろ。その格好見てるとこっちが益々寒くなる」
「あ? これでも着込んでる方だぜ」
「いやいやいや。普通の服一枚にジャケットだけだろ。絶対オカシイって」
「じゃあお前は何枚着てんだよ」
「ちょ、おい! 脱がすなっつの」

あろう事か甘寧は俺のコートを脱がそうとする。ボタンを数個外したところで、すうっと冷気が流れ込んできた。信じられないほど寒くて思わずガタガタと身震いする。

「あ、あああんたいきなり何すん……」
「悪ぃ悪ぃ。じゃ、寒いならこうしようぜ」

俺が開け放たれたままだったコートのボタンをしっかりと閉めると、甘寧は隣で俺の手をぎゅっと握ってきた。

こんな道端で……。反射的に俺は周りを見回してしまった。

「ちょっと、誰かに見られたらどうすんだい」
「神社の前で離せばいいだろ? それまでは暗いから俺らが誰だか分かんねえって」
「あ、そうですか……」

男が二人で、しかも仲良く手なんか繋いで歩いていたら誰でも不審に思うだろう。人通りの少ないこの道ならまだいいか、と思い手はそのままにしておいたが、何だか気恥ずかしくなって顔を横に背けた。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ