主に

□狭間での邂逅
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自分の存在が、漂う闇に霞む。
此処は一体何処なのだろうか。
私は一体、―…


その時感じたのは翡翠の色。
その時聞こえたのは貴方の声。


そうなんです、海燕殿。
私は貴方の様になりたかった。
貴方の様に身分の差を気にせず、誰とでも接したかった。拒まれたく、なかった。

だからなのでしょうか、
あの兄弟の姉になろうと、あの兄弟を守ろうとしたのは。

そう、きっと私は、貴方に、陽溜まりに、なりたかった。


けれど、無理でした。
貴方になろうだなんて、貴方の様に振る舞おうだなんて、私には出来ませんでした。

存在さえ霞みそうなのに涙が頬を伝う。

自らの行動の中に貴方を見出そうだなんて。愚かでおこがましかっ


「朽木」


「朽木、朽木」


誰ですか、それは。
貴方は誰を呼んでいるのですか。


「お前の大事な名だろうが!忘れてんじゃねぇ!!」

その直後、頭に痛みが走った。こんな事をするのは一人しか知らない。貴方しか、知らない。

「…海燕、殿……?」
「ったく、自分の上官だった奴も忘れてんのかよ…」

嘘だ、違う。
あの人であるはずがない。だって私が

「目を醒ませ、朽木」

「お前があの兄弟を救わねーで誰が救うってんだ?」

救う?私が??
どうやって救うというのですか。

「思い出せ」

思い出せない

「呼び起こせ」

何も出てきてはくれない

「奴らとの約束を」





浮かぶのは他愛もない会話。溢れるのは温もり。

『…名前、欲しい』

『ルキアに、呼んで貰いたいの』

そう言った二人。ならば、次。次に会った時に伝えよう。それまで、待っていて。三人しか知らない秘密の名を。
そう言って指を切った。

その三日後だった。
二人が逝ってしまったのは。
名を呼んでも、応えてくれない、解っては、貰えない。当たり前だ、伝えていないのだから。それでも、それでもと、見えなくなるまで、喉も涙も枯れるまで呼び続けても。届かなくて。ふがいない自分を恥じ、疎み、嫌悪した。




「お前が呼ばずに誰が呼ぶんだ」

「アイツらは今でも待ってる」

「…お前の仲間も」

「行ってやれ、朽木」

そう微笑む貴方の。貴方の言葉はまるで真綿の様に優しいのに。優しいから余計苦しい。
待ってくれる者など、居てはいけない。それほどまでに私は罪深い…


「だぁぁぁっ!!
お前は何時までウジウジしてやがんだ!
俺が行けっつってんだ、行け!!」
「…で、ですが海燕ど」
「人がちょーっと優しくするとこうだ!
オラ、歩け歩け!」
「ぁあっ、急に押さないで下さい!!」

本当に、二人待ってくれているのだろうか。そして彼らも
「…待っていて、くれるのでしょうか。見殺しにした私を……」
「…忘れろとは言わねぇさ。でもな、忘れるのと引きずんのは別だ。」
「……」
「お前に預けた俺の心と同じだ。忘れちゃいねぇだろ?でもないわけじゃない。ほんとは分かってんだろ??」

「だからお前は進め。」
「海燕殿、それは」

その時、貴方は霧散した。手を伸ばしても、届かない。声も届かない。これではまるであの時と同じだ。

嗚呼、あの二人に伝えなければ。でなければ、私自身も彼らも救われない。何時ともしれないその時をただひたすら待つだけだ。

行けなければ

伝えなければ

二人に、名を

三人だけの秘密の名を





終。
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