主に
□気付いて。気付かないで
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「有り難うございます、隊長…。俺一人に殺らせてくれて……」
「…ぁあ」
月に照らされた闇夜に血が舞う。
血の海に漂っているのは虚だけだった。
『気付いて。気付かないで』
都殿が亡くなった。
そして同じ13番隊の隊士らも。
如何なる隊員でも仲間同然とする我が隊、13番隊はまるで通夜の様に皆が涙し、鳴咽を漏らしていた。
なのに。
どうして海燕殿は泣いていらっしゃらないのだろう。彼方の奥さんが亡くなられたのに。当事者は彼方なのに。それにも関わらずどうして彼方は、
「都さんが亡くなったの、お前のせいなんだろう?!おいっ!」
ふと気づくと、私は体格のいい男に鼻息も荒く、見下ろされていた。誰だ、コイツは。
「お前が…っ!お前のせいでっっ!!」
胸ぐらを掴まれ、体が持ち上げられた。
「岩鷲!!!
お前、何やってんだっ!!」
海燕殿が走って来て男を殴った。
「だって兄ちゃん!ソイツのせいで都さんは…っ!」
「馬鹿野郎!勝手に早とちってんじゃねぇ!!大体、何時死ぬとも知れねぇこと覚悟で都も俺も命張ってきたって事くらいお前だって知ってるだろうが!!」
「けど…!」
まだ言い足りないであろう、岩鷲という男を海燕殿は足蹴にして無理矢理帰らせた。
「悪ぃ、ヤな気分にさせちまったな」
「いえ…」
「アイツは弟の岩鷲だ。血の気が多くてな。すまなかった」
そう言うと海燕殿は頭を垂れた。
「あ、頭を上げて下さい海燕殿!」
「…お前がやらなきゃ、アイツは誇りも何も無くしたままで死んじまってた。俺がしなきゃいけねぇ事だったのに……。辛かったろ、朽木。ありがとうな。」
そう言うと海燕殿はやっと顔を上げ、私の頭にポン、と手を乗せて自室へと歩いて行った。
海燕殿は勘違いをされている。いや、知らないのだ。
海燕殿は勘違いをされている。いや、知らないのだ。
違う。私はいい子などでは決してない。都殿が亡くなられた事を心の片隅で喜んでいる私なんて。彼方を想える事に胸をときめかせている私なんて。そんな私がいい子のはずがない。そんな事はあってはならない、のだから。
−気づいて欲しいのに知られたくないこの気持ち−
終