treasure novels U

□お前のすべてが愛おしい
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「ごゆっくり、お楽しみください」




係員の声と共に

カチャンとドアをロックされる音が聞こえた

「ふふっ、この観覧車に乗るの、久しぶりだね」

「そうだな」

嬉しそうに笑う沙絢に、笑顔を返してから

お互いの視線を、窓の外へと向けた



ゆらりと揺れながら、少しずつ高度を上げていくゴンドラ

視界に写るのは、宝石箱をひっくり返したかのような、煌びやかな横浜の夜景

クリスマスのイルミが彩る街の夜景も綺麗だったが

こうして季節が変わっても、やはり綺麗なことには、変わりないんだな

そんなことを想いつつ、そっと視線を向けると

「・・・やっぱり綺麗だなぁ・・・」

あの時と同じように、眼下に広がる夜景に魅入られている姿に、思わず頬が緩んでしまう

本当に・・・・何にでも素直に感動してくれるんだな、お前は・・・

その姿が愛しくて、夜景など、どうでも良くなってしまって・・・

無意識のうちに、沙絢を見つめていると

俺の視線に気づいたのか、ふと、沙絢の視線がこちらに向けられた

「・・・龍?どうか、した?」

「ん?あ、いや・・・」

不思議そうな声に、少し焦って曖昧な返事を返すと

「ふぅん・・・?」

きょとんとした瞳に見つめられた

「・・・だいぶ、上がってきたな・・・」

つい見とれていたことが、気恥ずかしくなり

話を逸らすように言葉を口にすると、くすっと小さく笑う気配が伝わってきて

「ほんと、ずいぶん高くなってきたよね」

沙絢の顔が、窓の方へと向けられた

「ね、龍・・・・」

「ん?」

「どうして急に、観覧車に乗ろうと思ったの?」

視線を窓の外に向けたままの沙絢の言葉に、ちらりと腕に嵌めた時計を眺める



・・・・・もう、始まる時刻だ・・・



「沙絢と一緒に見たいものがあって、な」

「私と一緒に見たいもの・・・って・・・」

沙絢の言葉を遮るかのように

地上から宙に向かって伸びたのは

独特の音と、一筋の光

ほんの僅かの間を置いて、爆ぜる音と大きく咲き誇る華の光が、俺達の元に届いた



「う、わぁっ・・・・」



先陣を切った光の華が、闇に消える前に

次々と紅・青・緑・黄・白・紫・ピンクの色を纏った華が咲き乱れ

そして、散ってゆく



瞬きを忘れたように、それに魅入る沙絢の顔

色とりどりの華が夜空に咲くたびに、その色が白い肌に映し出される


「すご、い・・・綺麗・・・」


・・・綺麗なのは、お前の方だ・・・


そんなことを思いながら、そっと華奢な左手を捉えた

「・・・龍?」

少し驚いたように上がる声と瞳に、微笑を返して

薬指に沿って、指を滑らせると、小さく息を呑む気配が伝わってくる



「沙絢、誕生日おめでとう」

「・・・りゅっ・・・」



大きく見開かれた瞳が、俺を見つめ

その視線が、静かに自分の左手薬指へと降りていった

プラチナのリングに嵌っているダイヤモンドが

夜空に煌く花火の光を受けて、同じ色の煌きを放つ


「沙絢の星座石と誕生日石なんだ・・・気に入ってもらえると、嬉しいんだが・・・」

そっと囁くと、再び俺に向けられた沙絢の瞳は、潤んでいて

「あり、がと・・・龍・・・」

少し震える涙声と嬉しそうな微笑が、返ってきた

「大事に、するね・・・」

目じりに涙を浮かべて、囁くように告げる沙絢が、どうしようもなく愛しくて

「沙絢・・・・」

柔らかな唇に、自分のそれを重ねた・・・・



















人と深く関わろうとしなかった俺の心を

解き放ってくれたのは、沙絢、お前だ・・・

その心が

その笑顔が

お前のすべてが、こんなにも愛おしい・・・




誕生日おめでとう沙絢


たくさんの幸せと笑顔が

これからもお前の周りに溢れることを

信じている・・・




〜Fin〜
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