treasure novels

□Avec amour
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『Xmas』の『X』は、ギリシャ語の『Xristos』(キリスト)の頭文字を表しており『X』で『Christ』(キリスト)を代用している











龍と過ごす二度目のクリスマスイブ

去年も一緒に過ごしたけれど、それは恋人同士としてではなくて・・・・

その時、来年も一緒に過ごせたらいいなって思ってただけに

今夜を一緒に過ごすことが出来るのが、嬉しくてたまらない

去年と同じ、龍の馴染みのイタリアンレストランで頂くクリスマス限定ディナー

だけど、今年は去年よりももっとふわふわした気分になっているのは

目の前の笑顔を独り占めできる・・・っていう幸せからなんだろうな

そんなことを考えながら、美味しいディナーを味わった

「龍さんも沙絢さんも、よいクリスマスイブを」

龍の後輩のウエイターさんが、にこっと笑顔で言ってくれた後

「あ、龍さん・・・・」

龍に細長くて白い封筒を手渡した

何か言おうとする龍の口を封じるように、笑顔で小さく首を横に振っている

「A Merry Christmas to you!ですよ、龍さん」

笑顔で告げられた言葉に、龍がふっと微笑んだ

「ありがとう」

笑顔でお礼を言うと、私の方に顔が向けられた

「行こうか」

「うん」

ぺこっとウェイターさんに頭を下げて、レストランを後にして

近くに停めている龍の車に乗り込む

緩やかに夜の街を走り抜ける車

窓の向こうには、クリスマスらしい輝きが光の筋になって流れてゆく

「ね、どこ行くの?」

食事の後、ちょっとドライブすると言われてはいたものの、目的地は教えてくれてなくて・・・

運転席の龍の横顔に声をかけると、くすっと笑い声が聞こえて

「内緒」

悪戯っぽい声が、それだけを告げる

もぉ、いっつも教えてくれないんだから・・・

だけど、なんだか楽しみだな

少しドキドキしながら、運転の邪魔にならないように、他愛ない話を口にしながら、夜のドライブを楽しんだ














そうして、龍が連れてきてくれたところは・・・

「龍、ここって・・・」

思わず、龍の顔を見上げて問いかけると、ふっと優しい微笑が返って来た

「前に来た時は、乗れなかったからな」

以前、龍にバイクで連れてきてもらって見た大きな観覧車

あの時は遅い時間だったから、ネオンで輝いている観覧車を見るだけだったけれど・・・

まさか、今夜連れてきてくれるなんて・・・

乗車口には、30人程が並んで待っている

「少し待つことになるが、平気か?」

こくんと頷くと、少しほっとしたような顔になった

龍に肩を抱かれて、最後尾に並んで

ふと、周りを見ると

あれ?

みんな乗りたそうな顔で見上げているのに、並ぶ気配、無いよね?

不思議に思っているうちに、待っている人達は次々に観覧車に乗り込んでゆく

よく見ると、乗るときに、係りの人に何か手渡しているのが見えた

ひょっとして、招待券とか何かがないと、乗れないんじゃぁ・・・

少し心配になって龍の顔を見上げると

「ん?どうした?」

「あ・・・ううん、なんでもないよ」

慌てて言うと、くすっと笑われてしまった

「心配しなくても大丈夫だ」

「・・・え?」

「ほら、もうすぐだぞ」

龍に促されて、慌てて前の人の後を追うように足を動かす

前に並んでいる人を見ると、やっぱり何かを係りの人に渡している

何だろう・・・・

あ、次、私達だ・・・

そんなことを思っていると、龍が白い封筒を取り出した

中からチケットらしきものを取り出して、係りの人に手渡す

「ほら、乗るぞ」

「え?あ、うん」

目の前にやってきたゴンドラに乗り込むと、その後に続いて龍が乗り込んできた

ぐらりとゴンドラが揺れる

座ると同時に、カチャンとドアをロックされる音が聞こえた

「ね、龍、さっき渡してたのって・・・」

ずっと気になっていたことを口にすると

「ん?あぁ、あれは、整理券だよ」

「整理券って、観覧車に乗るため?」

「あぁ、今夜はそれが無いと、乗れないんだ」

さらりと告げられたけれど・・・

さっきの白い封筒って、ウェイターさんが渡してくれてたもの、だよね?

「龍、ひょっとして、手に入れるために、お願いしてたの?」

そっと尋ねると、龍の顔が暗い中でも、ほんのりと赤くなったのが、わかった

「自分で行ければ良かったんだが、できなくてな・・・・」

脳裏に、レストランを出るときのウェイターさんの笑顔が蘇る

だから、あの時、龍、お礼を言ってたんだ

観覧車に私を乗せてくれた龍の気持ちと

その為に力を貸してくれたウェイターさんの優しさが嬉しくて

自然と笑みが浮かんでしまう

「じゃぁ、次に会った時、私もちゃんとお礼言わなくちゃだね」

笑顔でそう言うと、一瞬目が見開かれた後

「そうだな」

ふっと優しい微笑を向けてくれた

「龍」

「ん?」

「ありがとう、連れてきてくれて」

龍の瞳を見つめながら告げると、嬉しそうに目が細められて

「喜んでくれれば、俺も嬉しい」

低く優しい声が返って来た

ゆっくりと高度を増してゆくゴンドラ

ふと、窓の外に視線を向けると

「うわぁっ」

宝石を散りばめたような、横浜の夜景が眼下に広がっていた

地上の輝きが、海にも映りこんでいて、より一層輝きを増しているように感じる

「・・・・綺麗・・・」

思わず魅入ってしまっていると、ふっと龍が笑った気配が伝わってきた

ふわりと温かいものに、包み込まれる

「本当に、綺麗だな・・・」

「・・・うん・・・」

横に座っている龍に、優しく抱き締められながら、窓の外を見続けた

高度を増すに連れて、少しずつ目に入る景色が変わってゆく

本当に、綺麗・・・・

じっと眩い夜景を見つめていると、私を包み込んでいた龍の腕が、わずかに緩んだのを感じた

・・・・龍?

不思議に思っていると、左手をそっと捉えられて・・・

「・・・龍?」

「動かないでいてくれ」

振り返ろうとすると、耳元で低く囁かれて、心臓がとくんと揺れる

ゴンドラは、ちょうど一番高い場所にたどり着こうとしている

言われた通りに、じっとしていると

左手中指に、温かいものが触れた

「Merry Xmas 沙絢・・・」

優しい囁きと共に、左手を捉えていた手が離れていった

そっと視線を自分の左手中指に向けると

「・・・・・あ・・・」

自分ではめた覚えの無いものが、外から僅かに差し込む明りを反射して、銀色に輝いている

その中で、小さいけれど鮮やかな輝きを放つ、赤い石と青い石・・・・

「龍・・・・これ・・・」

指輪から視線を外せずに呟くと

「Xmas Presentなんだが・・・・気に入らなかったか?」

少し心配そうな声に、思わず首をぶんぶんと横に振る

龍から指輪をもらえるなんて、思ってもいなかったから・・・

「嬉しくて・・・・・・ありがとう、龍・・・」

胸の中に熱いものが込み上げてきて、小さな声でようやくそれだけを告げると

「よかった・・・」

ほっとしたような呟きと共に、またふわりと温かいものに包み込まれた

龍の温かさを感じながら、改めて左手中指の指輪を見つめる

透明な輝きを放つ青い石と

鮮やかな輝きを放つ赤い石

「この宝石って・・・・」

小さく零れた言葉に答えるように、龍の手がそっと左手を捉えた

「沙絢の誕生石のルビーと、俺の誕生石のサファイアだ」

「龍と私の誕生石・・・・」

龍の長い指が、優しく指輪に触れる

「お前の誕生石のルビーなんだがな」

「うん?」

「別名『宝石の女王』と呼ばれるくらい、強いパワーを持ってるそうなんだ」

「え?」

「持ち主を災難から守る力が強い、それから」

「うん?」

「自信を持たせたり、挑戦したことを成功へ導く効果があるそうだ」

思わず、龍の顔を見つめると、ふっと穏やかな微笑が向けられた

「で、俺の誕生石のサファイアには、感情的になったり混乱した時に、落ち着きを取り戻してくれる力がある」

長い指が、そっと左手中指をなぞる

「この指はな・・・・直感を司る指なんだ」

「・・・え?」

「お前が、何かに挑戦しようとする時、この指に嵌めた指輪がひらめきを与えて、サファイアが気持ちを落ち着かせ、ルビーが成功へ導いてくれる」

「それぞれが・・・力をくれるんだ・・・」

「まぁ、全部、宝石店の店員の受け売りだがな・・・」

低く呟く龍の声を聞きながら、また指輪を見つめた

外から差し込んでくる光を受けて、赤と青、全く違う色がそれぞれを主張するように輝いている

「なんだか、私と龍みたい・・・」

思わず呟きが口から零れる

熱くなると、夢中になって止まらなくなってしまう私と

冷静に周りを見て、リーダーとして皆をまとめてくれている龍

そんなことを考えていると、くすっと笑う声が聞こえた

「俺が傍に居なくても、この指輪が沙絢を落ち着かせてくれるだろ?」

「え?」

私の心の中を読み取ったような言葉に、心臓がどきんと跳ね上がる

「お前は、すぐ無茶をするからな、そのお守り代わりだと思えばいい」

「ひどーい、私、そんなに無茶なんて、してないよっ!」

ぷくっと頬を膨らませて振り返ると、少し悪戯っぽい瞳と出逢って、心臓がまた跳ね上がった

「どうだかな、エマノンとのコラボの前例もあるし」

「だ、だって、あの時はっ!」

思わずムキになって反論しようとしたのに

「わかってるよ」

優しい微笑と低い声が、私の反論を口の中に消えさせてしまった

「沙絢が思う通りにやって欲しいから、この指に贈ったんだ」

「・・・・龍・・・」

「お前は、自分の直感を信じて、前に進めばいい」

真っ直ぐに私を見つめてくれる切れ長の瞳

龍の想いが嬉しくて

龍の瞳を見つめたまま、小さく頷いた

お互いの顔に、笑みが浮かぶ

「ありがとう・・・大切にするね・・・」

囁くように告げてから、また指輪に視線を戻した

いつのまにか、ゴンドラは地上近くまで下がってきていて

そのせいか、外から入る光が眩しさを増している

・・・・あれ?

指輪を目の高さにかざして、じっと見ると

やっぱり、文字が刻んである・・・・

「Avec a・m・o・u・r?」

Avec amour?

「どういう意味なんだろう・・・」

「知りたいか?」

「え?」

あ、私、声に出しちゃってたんだ・・・・

顔を上げると、龍の顔の後ろに、もうすぐ降りることを気付かせるかのような、低い建物が見えた

降りる前に、知りたいな・・・

そう思って、こくんと頷くと、すっと龍の唇が耳元に寄せられた

「その言葉の意味だけどな・・・・」










Avec amour




「サファイアには別の力があってな」

「うん?」

「不貞を働くと、光沢が失われるそうだ」

「・・・・え?」

「指輪に刻まれてる言葉が真実だってことを証明してやるから・・・・部屋に戻ったら、覚悟しておけよ」

「・・・・はい・・・///」


〜Fin〜

⇒あとがきという名のお礼

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