東方獣戦争

□【オリジナルダー】
2ページ/2ページ

※アイキャッチ
幽々子「西行寺幽々子です、なんか私最近軽くなったように感じるんです。
 え、亡霊だから? あ、そっか。一人で納得」

妖夢「何言ってるんですか」


 ぽっかりと夜空に浮かんだ月。闇に包まれた冥界はシンッと静まり返っていた。
 白玉楼の縁側には月光が差し込まれ。闇夜は朧げな光景となり、庭や屋敷に幻想的な趣が存在している。
 太古の地球に似た美しさと良さがそこにあり、かつての戦士は心地良さからか。与えられた部屋ではなく縁側で横たわっていた。

「ダー……」

 視界に広がる夜桜の幻想的な美しさ。それは、彼の脳裏にビーストウォーズの日々を思い出させる。
 そして、懐かしさと共に眠気が押し寄せてくるのだ……。
 幻想郷に通じるという冥界、死んだ先にこんな場所があるとは聞いた事がない。
 ようやく回路が休止状態に動きだし、うとうととし始めた次……ダイノボットは今日一日を振り返る。
 それは戦友達と別れた時、もう少しでも馬鹿な事を言い合っても良かったという後悔から、この屋敷に来てからその日で行った事や体験した事をスパークに焼き付けたいという気持ちが彼にあった。

 今日も庭の掃除を手伝った後に妖夢と手合わせをして。彼女を自分の視覚センサーで捉えることが出来なかったこと……。
 手合わせをする毎にちび庭師が強くなっていることを肌で感じ、戦士として相手が成長していく姿を目撃出来て嬉しかったこと。
 そして、組み手が終われば。夕食の催促をする主に苦笑いを浮かべ。夕食の支度に取り掛かる妖夢を手伝い、三人で食卓を囲って手を合わせてから食事をしたこと。

 当初、トランスフォーマーは補給に別のエネルギーを必要とする為。普通の食事はしなくても大丈夫だと妖夢に伝えて断ったが。
 途端に目を潤ませる彼女を見ては断りきれず、好意に甘え。おかげで今では箸使いも上達し屋敷の主とおかずを取り合える程にもなれた。
 口では中々言えないが、ダイノボットは心の中でいつも礼を述べている。

ありがとう、美味いぜ。ダー。

 恥ずかしさが先行し、なかなか思うように裂けた口からそれが離れないことに余計恥ずかしさが増してしまう。
 彼女に対する罪悪感が募り、自分の取り皿におかずを取り分けてくれる際にはいつも妖夢を見遣ったまま……言えずにおかずが乗った皿を受け取るしかない。
 そして、何よりも礼を述べようとする自分の気概を。逸らしてしまう視線がいつも脇から感じるのだ。
 それは。


「隣、良いかしら?」
「……ダー」


 廊下を歩いてきたこの張本人西行寺幽々子の目だ。
 彼女の目がことある毎に彼を捉えてくるのだ。
 掛けられた声へ目を這わせようとせず。ダイノボットがただ、口癖で返すと。女性はゆっくりと彼の隣まで歩き、そこで腰を降ろす。
 寝巻の姿、くせがある桃色の髪が風に揺れる中でも幽々子の目は恐竜を見つめて穏やかな表情を浮かべていた。

 眠る間際、こうして彼女が隣にいるは今夜が初めてである……しかし驚く事は無い。何故わざわざ自分の元にやってきたのか、ダイノボットは何となく察していたからだ。

「……」

「……」

「……」

「……ダー、妖夢の事。だよな?」

 しばらくしたところで、折れたダイノボットは自身の中で感じていたことを尋ねる。
 いつも自分を捉えていた目は。自分と妖夢のやり取りを楽しんで見守っている家族のようであった。
 きっと他人との関わり方が下手な自分を注意しにきたのだろう……。

 そう思って声を発した彼を幽々子は首を振って否定するという意外な反応を見せ。
 彼女はすぅーっとダイノボットを双眸に映して答えた。

「それもあるけど……私は貴方自身の事が気になっていたの」

「ダー?」

 考えつかなかった返事に思わず、聞き返してしまう。
 今の彼には、目の前に佇む少女が儚くも凛々しさを感じるだけであった。

「ダイノボット、貴方は野原係長ね?」

「あ、うんえっ?」


※アイキャッチ
妖夢「コンパクト妖夢。一発みょんやります。連絡『明日・父兄参観剣』!!」

ダイ「ダー、無理してるな」
幽々子「……涙が滲んでるわ」



 亡霊の姫が述べたのはダイノボットが自分一人で問題を抱え込む癖についてであった。
 彼を庭先で見つけてから、白玉楼で共に暮らすようになった今日まで幽々子はダイノボットという者を見極める日々を過ごしてきた。
 愛嬌のある口癖がいつの間にか屋敷に響かなければ落ち着かない程、日増しに彼は白玉楼で大きな存在へと変化し始めている。
 同時に幽々子は彼の後ろ姿に秘められた悲しさを悟り、そして彼と妖夢とのやり取りでようやくダイノボットがどうゆう性格かを把握できていた。

「貴方は、一人で抱え込み過ぎる……」

「……」

 小さい子供を窘めるように大きな背を手で撫でながらそう述べた彼女に、自分でも薄々分かっていた事を言われ。ダイノボットは何も言葉を返さないまま耳を傾ける。


「一人で全部を背負うのは辛いわよ?」

「……」

 「背負う」彼女の言葉でダイノボットの脳裏にはサイバトロンメンバーが蘇ってくる。
 自分の責任を自分で取る為に一人で谷へと向かい、メガトロンと闘って力尽きた時……気付けば悲哀に満ちた表情で、馬鹿な自分を見守ってくれている彼ら戦友達。そして、小さな手で強く自分の手を握ってくれている相方の姿があった。
 感覚が失われつつあったにも関わらず、彼の想いがその手から伝わってきた時。
 一言二言言葉を交わし、「ありがとう」と言いたかった。
 だが、抱え込む性格がそれを塞ぎ。結局は別れを告げて逝ってしまった……感謝の言葉を内に秘めたまま。
 そして、今また自分は妖夢に対してソレが言えていない。
 このまま、また別れが来るのではないか。
 ぶっきらぼうの割りに内に秘めやすい自分の性格に苛立ちが募り、ダイノボットはそこでやっと口を開く。

「なぁ、どうやって言えば良いんだ。ダー、ありがとう。って簡単な言葉がよぉ……」

「……」

 彼から聞く初めての本音に幽々子は驚こうとはせず、自分に向けられた細長い鼻先に手を這わせて優しくはにかむ。
 母性を思わせる慈しみの笑顔に、ダイノボットは荒んだ心が癒やされていくような気分になる。


「もうダイちゃんは自分自身で抱え込む必要は無い。困ったら私や妖夢に頼って良いのよ?」

「幽々子、てめぇ……ダー」

「だって、私達もう友達じゃない」

 微笑む彼女から告げられた「友達」という単語に、ダイノボットは心からしがらみが消えていくような感覚を覚える。
 普通に聞けば青臭いと思って嫌気がさすが、幽々子に使われると悪い気はしない。

「友達……ダー、俺が?」
「ええ、そうよ」

 恐る恐ると彼女を見上げながらそう尋ねたダイノボットへ幽々子は笑顔のままコクリと頷き。意味ありげにある方へと振り向く。
 一体何があるのか……。疑問記号が回路に浮かぶ思考のまま彼女が捉える視線の先を目で追う。

 すると、そこには幽々子と同じように寝巻姿で部屋から出てきていた妖夢が廊下に立っていた。

「変身! ダー……妖夢」

「ダイノボットさん……」

 どうして良いかわからない表情でこちらを見ている彼女と。どうするか迷いながら上体を起こし、二本の大きな脚で身体を支えてから人型へと変身したダイノボット。

 絡み合う視線、その向こうで互いに時間を置いてしまう二人に。幽々子は苦笑いを浮かべながら小さくため息をつき、傍に立つ自分より大きな背を手で押した。


「……」

「いってらっしゃい、ダイちゃん」

 少女の力で簡単に動いてしまった自分の身体に軽く驚きながらも、そう促してくれた彼女を有り難く思い……ダイノボットは自分をトランスフォームする為に。
 目の前に佇む少女の元へと進み、言えずにいた感謝を述べるのであった。

「ダー……妖夢、いつも。美味い飯を食わせてくれてありがとよ」

「あ……はいっ!」


 太古の地球で誇りを持って散った戦士・ダイノボット。
 冥界に迷い込んでたった数日という短い間で、あたたかく迎え入れてくれた西行寺幽々子、魂魄妖夢の二人に呆れながらも。彼女達の優しさが彼にコンボイ達を連想させていた。
 何度も裏切りめいた行動をしても、突き放された自分を快く仲間に入れてくれたコンボイやラットル達。そんな彼らと何か通じるものを二人に感じ、ダイノボットは自然と納得する。

ああ、俺は。

 こうゆう連中と巡り逢える運に恵まれているのだと。


続く

次回予告

ダイ「なー幽々子」

幽々子「はいはい、なんでしょダイちゃん」

ダイ「妖夢って生真面目だよな」

幽々子「そーねぇ、いつもの事だけど」

ダイ「たまには新しい引き出しを見つけてやっても良いんじゃねーか?」

幽々子「じゃあ、面白い予告してもらいましょっか」

妖夢「えっ!? そ、そんなぁ!」

ダイ「ほれほれ時間が無いんぞーん」

幽々子「妖夢、ガンバッ」

妖夢「ええぇっ!? えーと次回【エイ取り物語】 次回も見て下さい、がっ、みょん(ガッ、チョーン風)」

ダイ「まあ、その……あんまり自分をせめんなよ?」

幽々子「妖夢、くじけちゃダメよ?」

妖夢「うわああぁぁぁん!」
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ