東方獣戦争

□【ウヒャヒャとブン屋と河童がいた夏】
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「どうも、タランスだっす。おーとそこのチミ、あたしのこと覚えてますか?
 え、蜘蛛なんか覚えてないってひどいなぁ。久しぶりに出たんスから。
 あたしはね、最近ねトランスフォーマーの仕事してんスよ、リベンジも出てるんで是非見に行って下さいっス。宣伝も出来たところで東方獣戦争の始まりだっス」


【ウヒャヒャとブン屋と河童がいた夏】


 妖怪の山。幻想郷にとって力のバランスの一角である場所。
 この山には天狗や河童など外界の知識にも精通し、技術力もある種族がたくさん住んでいる。
 陽気で情に篤く、仲間意識が高い為。ここに挑戦しようとする者はあまりいない。
 しかし、ここ最近。山の中ではある噂が飛び交っていた。

 ”化け蜘蛛”が現れ、山を登る者を無差別に罠をかけては脅かしているという。

 既に被害は何件か出ており、豊穣の神などは青く光り輝く糸でつくられた蜘蛛の罠にかかり。
 帽子の葡萄を食べられただけで代わりに「ウヒャヒャヒャ、ゴリラの好物をあげるからソレで頑張るっス」と告げてバナナを飾られる始末。

 そこで二人の妖怪が事件の調査を開始した。

 一人は、通称”谷かっぱのにとり”こと。河童の河城にとり。
 一人は、”幻想郷のブン屋”こと鴉天狗の射命丸文。

 何故この二人なのか、理由は山の自警隊である為が挙げられるが。
 二人共内心では化け蜘蛛に誇大妄想しつつ期待していたりする。

(最初は地底の蜘蛛……かと思ったけど青く光り輝く蜘蛛糸なんてあんまり見かけない。きっと見知らぬ技術が! byにとり、心の声)
(化け蜘蛛……ほっといたら被害が増えそうだから止めないと。でも良いスクープにはなるわ、絶対! by文、心の声)

 互いに思惑があるものの利害が一致した二人は今、協力して蜘蛛の捜索を続けていた。


「にとりさん、見つかりました?」

 山の真ん中から二手に別れ、いよいよ最下層まで来たところで二人は落ち合い。文の方から結果を尋ねるが、河童は首を横に振って答えた。

「全然、行動範囲が広いから見つけにくいよ。そっちは?」

「私もです、ま。簡単に見つかったらそれこそ面白くないですからね。蜘蛛が天狗と河童のタッグに何処までやれるのか……」

 苦笑していた。と思いきやすぐに天狗としての威厳ある笑みを浮かべる彼女ににとりも頷く。

 確かに、捜索して数分で見つかったら味気ない。ならば蜘蛛との駆け引きを楽しむまで……。今だ見ぬ蜘蛛に対して、天狗と河童は異様な対抗心を燃やすのであった。

「では、また二手に別れて捜しましょう。私はこちらを」

「じゃあ、あたしは川の方を捜すよ。終わったら此処で落ち合おっか」

「わかりました」

 蜘蛛による被害現場、その範囲が広い為に二人は仕方なく人海戦術を取るのだが。実際は「どちらが蜘蛛を捕まえるか」というプライドもあった。
 だからか、にとりも文も苦労など感じてはおらず。どちからといえばこの状況を楽しんで競っている……。

 蜘蛛への期待を胸に再び捜索を開始する二人の脚は変わらず勇み立っていた。
 だが、彼女らは自分達を噂が見つめている事に気付いていない。

「ウヒャヒャヒャのヒャ……あたしを捕まえるなんてウォーリーさんを捜すぐらい難しいっスよ」




 にとりと別れ、生い茂る木々を避けながら文は歩いていた。
 飛んで捜すのも考えたが、相手は地上の妖怪(?)。探索なら自らの脚でしなければ見つけるのは難しい。

「蜘蛛だから、木に隠れてそうだけど……いないわね」

 険しい道に脚を踏み入れながら、木を見上げて蜘蛛らしき影を追うものの。なかなか発見は遠ようで、つまらなそうに頬膨らます。

「ボーッと眺めていても見つからないし、行きま……あ、あれ?」

 歩を進めようと脚を動かした時、文は違和感を覚えた。


(ま、前に踏み出そうとしても力が入らない……)

 何故だ? 何か蔓が引っ掛かったからか。左脚が動けるのを確認し、そちらを軸にして力を込めるが。右脚はぴくりとも動けなかった。

 右脚を持ち上げようと上半身を下ろし、両手を沿えた瞬間。
 身体全てが急に動けなくなり、文は何がなんだか解らなくなる。

(噂の化け蜘蛛の罠にかかったというの? でも、妖怪なら察知できるはず)

 天狗として、恥ずかしさを覚える体勢のまま。あらゆる原因を推測するが答えはなかなか弾き出させない。
 風を使って存在を捜そうとするが、不思議なことに能力が低下しており。自分の身体に何かが引っ付くものがある。そのことしか把握出来なかった。

「ウヒャヒャヒャ」

「っ!? 誰ですか!」

 耳に入ったいやらしくも癒しのある笑い声……文は声を発した方向に目を這わせると。

 そこには蜘蛛がいた。
 紫を基調に黒等が入った輝く身体の、大きな蜘蛛が。

 天魔様程の巨大な虫に文は思わずこう叫んでしまった。

「わんわんっ!!」

「いないないばあって違うっス! このアンポンタランス!」


※アイキャッチ

タラ「あたしはタランス、蜘蛛のタランスっスよ。皆さんお久し、ウヒャヒャヒャ」

文「わんわんですよ」

タラ「純粋のかけらも無い奴には夢与えないっス」

文「わーい、わんわんだー(高い声色)」

タラ「てめぇシバくぞ」
文「すいません」

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