東方獣戦争

□【顔上げてごっつんこぅ!】
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「ごっつんこ、皆久しぶりだごっつんこ。あ、ごっつんこでごっつんこ。
 東方獣戦争の始まりでごっつんこぅ! あ、申し遅れました、蟻のインフェルノです」


【顔上げてごっつんこぅ!】


 リグル・ナイトバグ。通り名を”闇に蠢く光の蟲”と呼ばれる蛍の妖怪である。
 チルノ、ルーミア、ミスティアらと”バカルテット”として一括りにされていたりする。そんな彼女らは、人里で上白沢慧音が教鞭を取る寺子屋の生徒でもあった。

 四人の中ではリグルは知識は高く、常識人でもあるためかしばしばチルノ達に振り回され。最終的には共に慧音先生必殺の頭突きを脳天に叩き込まれるのだ。
 一括りにされるのも嫌ではあるがリグルにとっては友達同士のよくある事として喧嘩もしたり、泣いたりもするが……いつしかその関係が笑い声の絶えない日常へと変わっていた。

 今日も寺子屋の授業に出ようと。チルノ達と会える事に期待しつつ……ひとり、住家の森から人里へと向かう。
 そんな、何気ない一日がまた始まるはずだった。

 目的地まであと少し、森を抜けようとリグルが歩を進めた時。
 彼女は、木の根が張り巡っている地面がボッコリと盛り上がる光景と遭遇した。その出会いが……彼女にとって運命の日となるのだった。

「呼ばれてないけどごっつんこぅ!」

「うきゃあっ!?」

な、何!? 何が起きたの!?

 男のような叫び声と共に飛び出た土塊、突然起きた事態にリグルは思わず悲鳴をあげて尻餅をついてしまう。
 三月精あたりがまた悪戯しているのかと思い、気を集中して辺りを見回すが……そんな気配は感じられなず。彼女は別の原因を考察する。

ううん、わざわざあいつらが土の中に潜り込むなんて面倒なことはしない……多分。


 そして、盛り上がった土の山が崩れ。中からあるものが姿を現した瞬間。

「蟻? 此処は何処だごっつんこ」

 リグルは今まで経験した事のない違和感を胸に覚えた。
 キュンとした何かを。

か……か……。

 赤い身体、鋭く凛々しく逞しいアゴ。そして何より今まで見たことのない大きな身体を持つ蟻に蛍は思考を一瞬で奪われてしまったのだ。


「かっこはっ!」

 以前、聞いた事があった蟲達の恋愛話を思い出しリグルは口から飛び出しそうになった言葉を慌てて手で遮る。

私のバカ! 突然かっこいいなんて言ったら引かれるじゃないか。

 女は男からのプロポーズを待たなきゃ行けない。アピールすらしていない相手をいきなり褒めてはいけない。
 そう蟷螂等から聞いている。

な、なら此処は……。

「あ、あの!?」

「? お前誰だごっつんこ?」

「私、リグル・ナイトバグっていうの。あなたは?」

 蟲達の体験談を参考に、勇気を振り絞って第一歩を踏み出して立ち上がったリグルは彼に名を預ける……。
 頬を赤く染めて自分を見る彼女に、インフェルノは首を傾げる。

 コレはデストロン因縁の存在である人間だと姿を見て思い出す。しかし、頭に生えた妙な物や頭にしか体毛が無いことを目で捕らえた瞬間。直ぐにインフェルノは敵ではないと判断を改める。
 何故、そう判断したのか……理由はあった。

毛むくじゃらじゃないごっつんこ。人間じゃないごっつんこ。

 太古の地球で見た人類つまり猿=人間と把握してしまっているからである。

「ごっつんこはインフェルノだごっつんこぅ! インフェルノ、変身ごっつんこ!」

 挨拶には挨拶、自己紹介には自己紹介と株式会社デストロンで学んだマナーを守り。音声認識によって蟻の頭部が持ち上がり、それが身体を成してロボットモードへと姿を変える。

 味方であるデストロン軍、砲火を交えた敵のサイバトロン軍からすれば彼の容姿は別段気にするものではない。
 だが……赤く吊り上がった眼、剣山のような鋭く尖った歯を持つ彼の顔は初めて見る者からすればそれはただ。

「っ……」

 化け物でしか無く……リグルの全ては石化し、彼女の初恋は音を立てて崩れ落ちていった。

「大丈夫かごっつんこ?」

 ツンツンと、指先で安否を確認するが時既に遅くリグルと名乗った生物はぐらりと背中から倒れ込んでしまうのだった。

「ごっ!? 気をしっかりごっつんこ、ホワイトホールがごっつんこでごっつんこ!」


※アイキャッチ

イン「ごっつんこ! 胸はってごっつんこ。最近はなんかイケメンばっかで蟻んすね、アチキ」



「あ、あの。さっきはごめん……それから、ありがとう」

「ごっつんこ」

 寺子屋に到着したところでインフェルノの肩から降ろしてもらい、リグルは顔を真っ赤にしながら彼に謝礼する。
 最初こそ、彼の顔に驚きはしたが彼女にとってインフェルノという存在が今では慣れたものになっていた。


 遡ること数分前。気が付いて眼を覚ますと、リグルは木陰で寝かされ、さらには妙な子守唄をインフェルノに唄われていた。
 その時に彼女は自分が抱いていた彼に対する初見の印象と、彼の優しさから受けた印象の差に。可笑しさを感じ、思わず吹き出してしまう。

 同時に寺子屋に急がねば頭突きが待ち受けている事を思い出し、慌てて立ち上がろうとしたが。
 そこで違和感を感じ、腕と脚で身体を支えて腰を上げてようと試みるものの立ち上がれない。
 原因はインフェルノの顔を見て気を失った事で腰を抜かしてしまったのだと直ぐに気付き。リグルはどうすれば良いか思案した。

 まず、寺子屋に着いてから事情を話せば慧音先生は解ってくれる。が、蟻に腰を抜かした等と話しては蟲の妖怪の沽券に関わる……その為にこれは却下。
 しかし、この状態で遅刻せずに向かうのは無理だ。蟲達を呼んで運んでもらう事も考えたが、こちらも蟲の妖怪として却下。
 いよいよもって窮地に立たされ、臆病な自分が情けなく思えて眼から涙が滲みだしてしまう。
 どうすれば良いか、混乱して頭を抱えるリグルをそこでインフェルノは黙って肩に乗せて道を尋ねてきた。

「どこに行けば良いんだごっつんこ」

「え……インフェルノ……?」

 突然の事態にどうすれば良いか、思考が追い付かず蟲はただただ滲んだ視界で蟻の名を呼ぶしか出来ない。
 だが、次の一言でリグルはより彼に引き付けられる事になった。

「顔上げてごっつんこ、涙じゃ白い今日は見えないよごっつんこ。アチキが、リグルの行きたいところに連れて行くで蟻んす」

「っ……じゃあ、あっちに連れて行って」

 顔は恐いが、どこか愛嬌のある口調で難解な喋り方をするインフェルノ。しかし、彼が慰めてくれている事はなんとなく理解でき。
 リグルは手で涙を拭い、輝くような微笑みを浮かべて人里の方角を示すと。蟻は森を駆け抜け、白い今日を蛍に見せた。

 それから今に至り、インフェルノが抱えて走ってくれた事で寺子屋へは予鈴が鳴る直前で間に合う事が出来た。
 さらに彼を従えて現れた事で彼女は妖怪の誇りを損なわずにすんでいる。
 途中、人里で目立ったときは恥ずかしかったようではある。


「ねえ、インフェルノ……此処が何処か解らないんだよね?」
「ごっつんこ」

「なら、慧音先生に紹介してあげる。此処で私達と一緒に勉強しようよ。わからないことは……その、私が教えゴニョゴニョ」
「ごっつんこ」

 そんな会話をしながらリグルは仕切りのない横長の下駄箱に靴を入れて彼と廊下に上がり、そこから教室に着き。
 内心、インフェルノの事をどうやって皆に紹介しようか桃色なシュミレートしながら。リグルは襖障子に手をかけて引く。

「皆ー、新しい私の友だち……を」

「あ、リグル。新しいあたいの友だち……を」


「ぎっちょんちょんじゃねぇかごっつんこ!?」
「ブラー、ごっつんこじゃないのかギッチョンチョン!?」

 教室の中、ルーミア達や人間の子供達と遊んでいる翡翠と黄の片手が蛇で片手が変な奴が居て。インフェルノと互いに反応したが。
 ふとリグルとチルノは互いの眼が合った瞬間、火花を散らしはじめる。


「な、なんだ。どうした?」

 後から来た慧音がごっつんことギッチョンチョンを生徒にする直前の事だった。


続く

次回予告

慧音「お前は……蟻なんだよな?」

イン「ごっつんこ」

慧音「しかも妖怪ですら無いとは……普通なら追い出したいが」

イン「ごっつんこ、勉強したいでごっつんこ」
リグル「勉強なら私が」

イン「此処は……げ、幻聴……郷でごっつんこ」
リグル「もう、違うよ幻想」

慧音「キュン! げ、げげ幻想郷だぞインフェルノ! し、仕方ないな。生徒になっても良いぞ」

イン「ごっつんこーい! 次回【冷え冷えギッチョンチョンです!】」

リグル「インフェルノ、ぐすっ」
イン「ごっグルッ!?」

リグル「MSみたいな呼び方するな、インフェルノのバカァ!」
嫉妬『リグルキック』

イン「ゴアッ!?」
慧音「い、インフェルノ大丈夫か!?」

イン「ほ、ホワイトホール……白い明日がガクッ」

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