東方獣戦争
□【冷え冷えギッチョンチョンです!】
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「はーい、皆さんお久しぶりぶりクイックストライクだギッチョンチョン。ちゃんと寝る前歯を磨いてるかブラー。
磨かないと俺みたいに強い歯になれないぜギッチョチョチョチョ。さあ東方獣戦争の始まりだギッチョン」
【冷え冷えギッチョンチョンです!】
チルノ。幻想郷最強の存在と自称する氷の妖精。
妖精であるがため、基本的に何処で会うか解らないが霧の湖にいけばたいていは湖面を凍らせて寝ている。
また、最強のバカでバカルテットのリーダーである。(最近は地下の八咫烏と二分できるのではとの意見も出てきた)
いつも蛙を氷漬けにしては諏訪子から怒られているが、彼女は別段気にしていない。
そんな彼女も、慧音が人里で開いている寺子屋の生徒の一人であり。幻想郷において誰が最強かを勉強で証明する為に彼女は意味が無いにしても授業に出るのだ。
非常に涙ぐましい。
そんな今日も親友の大妖精と一緒に人里へと向う為に視界の悪い霧の湖を二人で渡っていた。
「宇宙の平和を守るため、闘え最強チルノ様」
湖面の上に足を置けば、チルノが放つ冷気によって自然と足場が出来。 親友の口ずさむ即興歌に苦笑いを浮かべながら大妖精はしっかりと凝固した湖に足をおろしてチルノの後に続く。
「我々、取材班は正体不明の森へと進んだ」
「え、藤岡探険隊?」
湖を渡り終え、森に入れば。いつの間にか拾った木の枝を指揮棒にして、リズムを刻みだしているチルノ。
二周に突入し、気分が乗ると。自然と手に力が篭り、指揮棒の速度は増して風を切っていた。
チルノちゃん楽しそうだなぁ。
朝から、ハイテンションで周囲を明るくする親友を大妖精は優しい笑顔で見つめる。
何時も、どんな時でも何時からか。共に行動するようになっていた彼女はこの日常が嫌いではない。
こうした朝を迎え、人里の寺子屋でリグル達や人間の子供達と一緒に学び、遊んで一日を終える。
友達とそんな毎日を過ごせるのが彼女は勿論、チルノも楽しいのだ。
「氷のパワー、身体で発し。蛙を凍らせ悪戯だ、夢と希望の氷の妖精。氷の力をフル活用「ギッチョン」
タチツテ、タチツテ「ギッチョンチョン」
突然、不思議な歌詞に変化したチルノの即興歌に疑う事無く。大妖精は耳を澄まして聴いていた。
「ギっギ、ギッチョンチョン。ブラー」
「ギっギ、ギッチョンチョン。ブラー」
「っ!?」
既にチルノ自身の歌では無く、意味が解らない歌詞が羅列し。さらにコーラスが加わっていた事にようやく気付く。
男の声、それも高いキーが出せる声……さらにいつの間にかチルノの身長も伸びていた。
あれ、チルノちゃんってこんなにあったっけ?
見下ろせば胸の辺りで青いリボンを付けた頭が視界に入るはずが、今は自分より高い位置で歌を口ずさんでいる。
大きな石か何かの上に乗っているのだろうか、そう推測して視線をチルノの足元へと向けた直後。
大妖精の健康的な笑顔は、一気に青ざめる。
視界に入ったのは、翡翠と黄色の目立つ色の身体を持ち。尻尾らしきものが蛇となっている蠍……。その背中に腰掛けながらチルノはまだ木の枝でリズムを刻んでいた。
あはは、私ったらきっと幻覚を見ているんだよ。うん、きっとそう。
少し強く、両手の甲で眼を擦り。改めて現実を直視するが……やはり、蠍はいて。親友は相変わらず頭があんまり良くなさそうな笑顔を浮かべているのだった。
「その時、森の中で我々取材班を待ち受けていたものとは!?」
「え、CM入るんですか? 解りました」
※アイキャッチ
クイ「俺はクイックストライクだよギッチョン、フューザー戦士で悪いかブラー!」
※
「あんた誰?」
「ち、チルノちゃん!?」
「俺は、クイックストライク蠍とコブラのフューザー生命体だギッチョン。ブラー」
チルノの声とうろたえている大妖精に蠍はハサミを開閉をしながらこちらを見返して言い返すと。
「あたいはチルノ、幻想郷最強なんだから」
「お前が最強だって? ホントかギッチョンチョン」
「ホントだもん」
「ヘソでミルク沸かしたら認めてやるブラー」
「ムキー、何気に出来ないこと言うなー!」
軽くいなすと悔しそうにポカポカと頭を殴るチルノ。しかし、流石に効かないのかクイックストライクは蛇の頭を隣にいた少女へと向けて声をかける。
「そっちはなんて名前だブラー」
「へぅ、わ、私ですか!?」
突然、パクパクと口を動かすコブラが突き出され。油断していた大妖精は思わず声を上擦らせてしまう。
驚くのは無理も無く、先程からしゃべっていた蠍の方に思考を奪われていた彼女からすれば。擬態用と考えていたコブラが喋るなど考えもしない。
驚かされて混乱した頭をなんとか収拾し、少女は勇気を出す。
「私は大妖精と言います、あの……クイックストライクさんは二人何ですか?」
「いーや、こっちはただの腹話術だギッチョン。ブラー」
クイックストライクから帰ってきたややこしい事実にこけそうになりながらも、なんとか踏み止まる。
最初、彼の風貌から凶悪な妖怪に遭遇したような恐さがあったが。どこか愛嬌のある口癖に加えチルノを振り下ろす事もせず、背に乗せて歩いているのが恐怖感を払拭させてくれた。
優しい性格なんだな、と安堵し。大妖精は頬を緩ませ、何時しかコブラの頭に手を伸ばしていた。
「生きているんじゃなくてクイックストライクさんが動かしてるんですね」
「当たり前だギッチョン、声はちゃんと変えてしゃべってるんだギッチョン。
ところで、此処は何処ギッチョンチョン」
「ふん、バカねクイちゃん。森もわかんないなんて」
「そんな事は見りゃわかるギッチョン、俺は気付いたらいつの間にかこの森に居たんだブラー。
そんで辺り一歩二歩散歩してたらチルチルが素敵な歌を歌いながら俺に座って来たんだギッチョンチョン
にしてもさっきから背中の辺りが冷たい冷たいギッチョン」
勝った。と内心言ってそうな笑みでガッツポーズをしている親友をよそに大妖精は考えに耽っていた。
気付けば。という証言、さらに見たことの無い種類の妖怪(?)である彼。
大妖精は以前、慧音から聞いたことがあった”幻想入り”という言葉が浮かび、クイックストライクに当て嵌めていた。
何かが原因で元の世界で居場所を追われたりし、この幻想郷にやってきたり迷って入ってきたりするという……。
妖怪等、見慣れた自分達妖精でも彼のように二種の生物が一体となっているのは珍しい。
クイックストライクはもしかすれば、前者としてこの郷にやってくるしかなかったのでは?という考えに大妖精は行き着いた。
考察している間に森は抜け、三人は人里へと差し掛かっており。既にクイックストライクの姿を見かけた者は珍しそうに視線を集中している。
蛇が尻尾になっている蠍、しかも派手な色合いだからか。人間、獣人、妖怪等人里を行き交っているほとんどの種族の者から見られていた。
「ね、ねえチルノちゃん」
少し恥ずかしさを覚えつつ、クイックストライクの背中に乗る親友を呼び、大妖精は彼女の耳にある事を囁く。
何を話したのか……それは彼をこのまま寺子屋に連れていって慧音に紹介し、生徒にしてもらおうという内容のもので。
一瞬、慧音が難色を示すのでは。とおもいあぐねたが、見かけよりも大人しいクイックストライクと会えば許してくれるはず。と判断し。
チルノに協力を仰いだのだ。
「ふーん、ま。クイちゃん頭悪そうだしね。ねえねえ」
「ギ?」
やれやれ、と言いたそうに肩を浮かせているものの。親友の提案には大賛成で、輝くような笑顔を見せてクイックストライクにチルノは声をかける。
「クイちゃん、これからあたい達と寺子屋に行こうよ」
「寺子屋ぁ? チョンマゲ頭の金八でもいるのかギッチョンチョン」
「誰ソレ? とりあえずクイちゃん、幻想郷何にも知らないだろうから最強のあたいがとことん教えてケチョンケチョンにしてあげるんだから」
ドンっと自らの小さな身体に拳をぶつける氷の妖精からは自信が満ち溢れる、冷気としてクイックストライクに伝わる。
彼としても、未開の地で寂しく暮らすよりも世話になって地形を把握するのが先決で。彼女らの提案は拒む理由すら見つからない程有り難いもの。
「知識が最強ってソレ訳ワカメだブラー、まあ。チルチルがそこまで言うなら世話になるギッチョン」
「よーし、なら早く行こ!」
ツッコミながらも彼が受け入れた事にチルノは気を良くし、移動速度を上げるよう促す。
するとクイックストライクはコブラで大妖精の身体に巻き付け、そのまま彼女をチルノの後ろに乗せて寺子屋へと向かっていく。
「お客さん、行き先は何処だギッチョン。世にも珍しいサソリタクシーが走るブラー」
しかし、この時。リグルが大型の蟲を従えて移動しているのが何となく羨ましかったチルノが、クイックストライクの背中を気に入り。
興奮したおかげで移動中、徐々に冷気が増えだした事に誰も気付かず。
寺子屋に到着した頃には彼が半分凍っていたのは言うまでもなかった……。