東方獣戦争

□【気合いじゃ、ちょっきんな!】
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「ちょっきんな! 皆久しぶりじゃのう、わしゃ蟹のランページじゃ。
 元気しとったか、わしゃ元気じゃ。皆は蟹がどがぁ鳴くか覚えとるか?
 覚えとるんじゃったら言ってみい。せーの、ちょっきんな!
 ほいたら、東方獣戦争の始まりじゃー!」


【気合いじゃ、ちょっきんな!】


 迷いの竹林。人里から見て山とは正反対に位置している。
 一度入れば、高くそびえ立つ竹により光が差し込まれる事は無く。
 どのように地が傾斜でも平地であっても真っすぐに生えた竹の景色しかない、当然目印になるようなもの等何も無く。平行感と方向感覚が麻痺してしまい抜け出せなくなるのだ。
 そして、獣の妖怪達も好んでここに住み。迷った人間を襲ったりする。

 だが、ここ最近竹林では妙な噂がたっていた。

 それはある日からか、妖怪達が突然巨大なハサミを持った化け物を襲って。逆に返り討ちにされているというのだ。
 駆け付けた自警団の証言によれば、逃げ延びた妖怪達は青ざめた表情で口々に「ちょっきんされる、ちょっきんされる」と呪文のようにずっと繰り返して身体を震わせていたと。

 翌日になってあらためて被害にあった彼らに何が起こったのか尋ねれば、途端に襲われた時の記憶が蘇って泣き叫んだりする為。
 自警団は未だに噂の真相が掴めておらず、やきもきしながら竹林から聞こえた悲鳴を目指して駆け付ける毎日であった。


 そんなある日。またも竹林で悲鳴が立ち上り、白く長い髪を揺らしながら一人の少女が急いで向かっていた。
 彼女の表情は険しく、真剣そのものであり。地面を蹴る力は強い……その訳は。
 彼女もまた、ようやく到着した頃には死に至らぬまでもないが返り討ちにあった妖怪は大怪我を負い。追跡するのを断念して被害者を永遠亭に連れて行く。
 犯人を今日こそ捕まえ、そんな毎日を終わらせようと彼女は意気込んでいたからだ。


 そして、悲鳴が聞こえた場所へ接近するにつれ。つんざくような笑い声が聞こえ、確実に場所を把握した少女は大きな陰を見据えて突入していく。
 そこには蟹が居た。それも、自分など較べるまでもなく巨大な蟹が……。

「わしを狩ろうなんぞモンハンやり過ぎで可笑しなったんかぁ、ぉお?」

「い、嫌ぁ……」

 ドスの効いた、低い口調で話す先には。蟹のハサミに捕まっている虎妖怪が、すっかり縮み上がっており……既に顔は恐怖で凍り付いていた。
「ホレホレ、恐がれや恐がってくれや。わしゃ恐怖に戦く姿が大好物なんじゃ」

 恐らく、今回も襲ってきた相手を返り討ちにし。ああして精神的に傷を負わせているのだろう。

虫酸が走る……。

 沸々と沸きあがる血肉と炎。少女はもう我慢の限界を越えてしまい、手に翳した炎を妖怪を締め上げる蟹のハサミへと放つ。

「うあっち、あーびっくりしたぁ!?」

「っ!」

 炎が音を立てて直撃した事でハサミが外れ、重力によって解放された妖怪は一体何が起きたか解らないようであったが。
 見ただけで焦げ付くような赤い炎を纏う少女に気付き、彼女に頭を下げてその場から逃げ去る。

 なんとかこの場から退散した妖怪に胸を撫で下ろし、少女はあらためて化け蟹へと視線を向けた。

「この外道蟹……」

「なんじゃ、人間の娘か……フン。人間ごときがわしの邪魔しおってからに」

 忌ま忌ましそうに、ハサミを開け閉じしながら愚痴る蟹へ。少女はそのまま質問を続ける。

「今まで、この竹林で。妖怪を返り討ちにしてたのって……あんただよね」

「お? おーおー、思い出したわ。ついこの間此処に迷い込んでから、ようさんわしに喧嘩売ってきたからのぉ。
 つい、ちょっきんしてもうたんじゃ」


 目を細め、今まさに全ての炎を放つかのような勢いを見せながら……少女はゆっくりと蟹を見据える。
 怒りに任せて殺してはいけない、いくらやり過ぎといっても彼も正当防衛に過ぎない……。なんとか沸き立つ感情を抑えながら彼女は蟹に注意をしようとしたが。

「あいつらの恐怖は美味かったのぉ」

 蟹の口から出た楽しそうな感想を耳にした瞬間。少女の沸点は、ついに箍が外れてしまった。


「もう良いよ……消す」

 自分と蟹の周りをぐるりと走って包囲する炎。逃がさないとでも言っているかのように彼女は眼を吊り上げている。
 絶対零度の殺意、燃え盛る火が音を立て。熱を発しているというのに少女の殺意は冷たさがあった。

 普通の人間や妖怪が目の当たりにすれば、もうそれだけで卒倒するであろう……しかし。
 蟹には、戦闘好きな彼には火に油を注ぐようなもので。恐がるどころか、興奮さえしていた。

「ええのぉ、ええのぉ。やっと強者と闘える……変身!」

 さも嬉しそうにそう呟いた直後、蟹はその姿を解き。ロボットモードへと変化し。
 少女は表情が崩れてしまう。

な、妖怪じゃないの? こいつ。


「わしゃ蟹のランページじゃ、よろしゅうしようや。ちょっきんな!」

「く、私は妹紅。藤原妹紅よ!」

「なに、来ないだ離婚した藤原さんか。いけんのぅ。夫婦は仲良くちょっきんせんな」

「いや結婚してないから!」

 名を名乗ると共に、大型ライフルが。炎が互いに向けられたところで、二人の闘いは幕が上がった。

※アイキャッチ
ラン「盛り上がってきたのう、チャンネルはそのままじゃちょっきんな!」

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