東方獣戦争

□【オリジナルダー】
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「ダーッ、俺はダイノボットだ。皆毎日頑張ってるかー! あ? 俺は冥界のサラリーマンとして頑張ってるぜぇー。
 そんじゃ、東方獣戦争の始まりダーッ」


【オリジナルダー】


 白玉楼。そう呼ばれる広大な屋敷が冥界に存在する。
 そこは数え切れないほど多くの桜の木が庭に植わっており、中には妖怪桜も混ざっていたりするのだ。

 その建物の中はどうなっているか、それは解っておらず。屋敷の者でしか解らない。
 白玉楼に住むのは、西行寺家の令嬢と庭師。そして、最近居座りだした恐竜のみである……。


「ダー、読みやすいんだよ」

「はっ!」

 花びらが舞い降りる庭、そんな中を三つの竹刀が交わっていた。
 弾かれ、斬りつけるを繰り返し、交差しては辺りに乾いた音を響かせる。
 肩までの白い髪を揺らし、両手に握られた竹刀を繰り出すのは魂魄妖夢。人間と幽霊のハーフの少女で。
 かたや一本の竹刀で守りを見せるのはダイノボット。恐竜に変身するトランスフォーマーである。

 体格の大きく、山のようにどっしりと立つ彼に妖夢は速さで翻弄するように動き。頭上へと斬り掛かっていく。
 だが、軌道を読まれ。竹刀同士がまたもや乾いた音を立て。小さく舌打ちをして妖夢は跳びのいてダイノボットから距離を取る。
 彼から一本を取るどころか、掠りもしていない事実に少女は眉間に皺を寄せて高い位置にあるダイノボットの顔を見遣った。

 攻めても攻めても、吸い込まれるように妖夢の竹刀はダイノボットの竹刀に弾かれてしまう。今のところ、そんな状態が二人の間で続いていた事に悔しさが彼女の中で渦巻く。
 勝ちたい、勝ちたい。と焦る気持ちを深呼吸で抑え、妖夢は竹刀を握る両手を見下ろす。

「ダー、おまえの性格がきっちりしてっから。捩り曲がった俺にははっきりと解るぜ」

「はぁ、はぁ……。はい」

 そこへ放たれたダイノボットの感想を心に染み込ませ、妖夢は強く頷く。
 いつか勝ちたい、と強く闘志を静かに燃やしながらも。彼女は彼という新しい師を得た事でここ最近は充実した毎日を送っていた。

 ダイノボットがやってきたのは遡ること数日前、夕食の支度をしていた時に主が「これは食べられる?」と聞いて引きずって台所まで連れて来たのがそもそもの発端で……。
 当初、見たこともない気絶したトカゲ妖怪(?)と印象を受け。こんなものを主の口に運ばせる訳にもいかない。と判断し、慣れていながらも主に元居た場所に返してきてもらおうと向き直った。
 だが、そこにいた彼女は普段ののんびりした表情ではなく、労るような優しげな顔でトカゲを眺めており。思わず妖夢は押し黙ってしまう。
 
 何か彼に感じるものがあったのか……、言葉を詰まらせて主の視線の先に横たわるトカゲに目を向ける……。しかし、妖夢にはそれ以外、何があるのか解らないままであった。

 それから客間へと運び、夕食を一人分多めに作ろうとしたところでトカゲは意識を取り戻した。
 外界から来たのか、初めて妖夢達を見た時は混乱していたようで。
 目を白黒させて辺りを見回していた。しばらくして落ち着くと彼は”ダイノボット”と二人に名を告げ、互いに情報を与える事ができた。

 彼は未来から太古の星に来て、人々の祖先である生物を助けるべく。一人で果敢に立ち向かって守り通し……力尽きた。と今までに体験した事をい告白してくれて。
 語り終わった頃には、妖夢の彼を見る目は尊敬の眼差しを送るようになり。
 主も大冒険譚を子守唄代わりに聞かされた子供のように輝いた目で彼を見ていた。

 全てを話し終え、もはや、何もすることのない。何をすれば良いか解らないとダイノボットが最後にそう付け加えた途端。
 主はこの屋敷に住むことを薦め、妖夢もそれには合意した。
 少し、強引な感じはしたが。それでも二人は彼を放っておけずに引き止め、そんな経緯から白玉楼はダイノボットを迎え入れた新しい生活が始まった。
 彼が人型の姿ならば剣を持つ事も知った直後、妖夢はダイノボットに手合わせを希望する。知り合いに剣を主体に扱う者がいなかった彼女からすれば彼の存在は願ってもいないメシアの来訪である。
 そして、快く承諾を受け。ほぼ毎日、掃除が済んだ後に相手をしてもらう仲となって今に至るのだ。
 初日、手合わせをした妖夢は直ぐにダイノボットから一本も入れれず体力切れで膝をつかされ。
 彼が修羅場を潜ってきた本物である事を理解できた時、妖夢の闘志はゴウゴウと燃え上がった。
 そして何時からか同時にダイノボットと闘えることが剣士としてだけでなく。別の嬉しい気持ちがあることを……彼女が自覚するのは別の機会になる。


「今日もありがとうございます、ダイノボットさん」

「だ、ダー」

 夕食の支度をする時間が来たところで手合わせを終え。妖夢はダイノボットに礼儀正しく頭を下げて礼を述べる。
 一方、感謝をされるという慣れていない行動にこそばゆさを感じ。ダイノボットは指で頬を掻いて彼女から視線を外して外方を向いてしまう。
 今までは仲間達と憎まれ口を叩き、自分が彼らに迷惑をかけてきた事はあっても礼を述べられる事は滅多になかった。
 そんな男が「ありがとう」と言われば自然にそうなるのは無理な話ではない。

「……」

 しかし、そんな彼の心境が解るわけもない妖夢は自分が何か気に障るような事をしたのでは?と不安にかられはじめ。途端に眉を下がり、明るかった表情に焦りが混じりだす。

「その……私、あの……

「ダッ!?」

 そんな彼女を視界の端で捉えたダイノボットは罪悪感を覚え、気持ちの中で深くため息をついて口を開く。

「だ、ダー。俺には今何もできねぇからな。出来ることがあるんなら、さの……させてもらうぜ」

 こんな事を言った今、自分の顔はきっと照れている。そんな表情を見られたくない。
 恥ずかしさから顔を向ける事ができないまま、ダイノボットがそう呟くと妖夢に明るさが戻る。

「はい、これからもお願いします!」

「ダー」

 竹刀を二本とも左手で握り、あらためて頭を下げ。嬉しそうに屋敷へと向かう小さな背をダイノボットは長い間見送っていた。
 彼女のように礼儀正しく、生真面目な性格は今までならシルバーボルトしか会った事がない。さらに言えば、ダイノボットはそうゆうのが少し苦手な部分があった。
 理由は、あっち行ったりこっち行ったりする自分とは違い。信念に従って真っすぐ行ける強さがそうゆう者にあるからだ。
 嫉妬なのかもしれない、そう解っていても彼には苦手である。そして、今また。自分に感謝する庭師の少女も、苦手な相手だとダイノボットは彼女の姿が消えたところで強く確信した。

でも。なーんか、こうやって懐かれるのは悪い気はしねぇなぁ萌え萌え。心の声でっす。


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ダイ「どうも、ダイノボットひろしです。あ、全国の良い子はおにぎりにチョコビを入れてお父さんに渡したらダメだぞ?」

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