魔女は番犬と戯れる

□1.
1ページ/7ページ

「聞いてちょうだい! シェリル!」
 リヴァディアス王国の王宮、奥の間に入るやいなや僕に詰め寄ってきたのは王妃様だ。
 僕は仕事とは別に王妃様の相談役と称した話相手もしている。
 仕事と言うのは国付きの魔導師。魔導師と言っても病気の治療や健康や美を保つ為の秘薬を調合する薬師的な働きを主としている。代々僕の家、クレーヴェル家に生まれる女性だけに秘薬の調合の書は受け継ぐ事が出来、そしてリヴァディアス王国に仕えてきた。
 つい最近先代の婆様が隠居したいと言う事で代替わりしたばかり。順当にいったら本当は僕の母が次の魔導師だったんだけど、母は僕が幼い頃に亡くなってしまったので、僕が跡を継いだ。
 小さい頃から婆様から色々と習い、今では大体の仕事はこなせるけれど、まだ16才でまだまだ未熟。それに僕は普通の人とは少し違い、体的に問題がある。そんな僕を王妃様は快く受け入れてくれた。
 王妃様もまだ18才とお若く、年の近い僕を妹のように可愛がってくれる。だから僕は王妃様を心から慕っていて、王妃様の憂いは払ってあげたいと思っているんだ。
「あの人ったら、夜な夜な街へ遊びに行ってるのよ! 私を放ったままにするなんて酷いと思わない?」
 お茶を飲みながら愚痴を零すのは日常茶飯事。王妃様の言う『あの人』は勿論リヴァディアス王陛下の事。陛下もまだ年若くお盛んなようで王妃様をいつも悩ませていた。
 でも夜に遊びに行く、と言っても女性がお酌をしてくれたり、歌を披露しているようなお店へお酒を飲みに行くぐらいなのだ。お妾さんとか愛人を作るといった事ではないのはすでに調査済み。
 それ以前に端から見ていればこちらが恥ずかしくなるくらいお二人は仲睦まじくていらっしゃる。
 それでも王妃様にしたらやはり陛下が女性のいるお店に行くのは面白くはないのだろう。
 いわば可愛いヤキモチだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ