のんびり小説 ポタ部屋

□燃え尽きる流星の明かり
1ページ/4ページ



引力にひかれる流星のように。

私の心はいつも、遠く離れた場所から、彼の明かりを目指して飛んだ。

彼はいつも苦く笑うばかりで、私を見てはくれなかったけれど。

それでも、隣にいられればそれで良かった。

「何を怖がっているの、セブルス」

淋しげな背中に問いかけても、いつも答えは同じ。

「・・・何も」

つぶやいていつも、私に別れを告げた。

どんなに努力しても、泣き叫んでも、報われることのない愛情。

そんなものはないと、私は子供の頃思っていた。

だけどあるとき、私には理解できた。

届かなくても、過ぎ去っても、たとえその存在さえ消え去っても、終りを望まない愛情。



私が彼を愛したように。


彼が彼女を愛したように。



***********


まだ学生の頃。

私はひとつ上級生だった彼に、そうなることが決まっていたかのように恋をした。

年は上だったけれど、同じ寮だったこともあって、時折声をかけ、
たわいもないことを話しているだけであっという間に友人になれた。

寒い寒い冬のホグワーツ。

吐く息も白い廊下を歩いていると、向こうの教室から大勢の生徒たちに混じって
彼が出てくるのが見えた。

「セブルス!」

彼は私を見つけると、抱えた山のような本を抱えたままこちらへやってきた。

顔にかかる暑苦しそうな長い髪を長い指ですくうと、じっと私の顔を見つめた。

「・・・・・・何だい?」

慌てて声をかけたものの、何も考えていなかった。

「え〜と、・・・・・・・・・・・次のお休みはおうちにもどるの?」

「いや・・・、戻らないよ」

「そう」

彼の声が少し沈んでいたように思えて、少し気が滅入った。

聞かない方が良かっただろうか。

「お〜い、エバンズ」

彼の背中越しにグリフィンドールの生徒、ジェームス・ポッターの能天気そうな声が響いた。

グリフィーンドールの英雄、無敵のシーカー、ジェームス・ポッター。

私にとっては、まるで世界の異なる人間だ。

ジェームスと、その友人たち、シリウスやルーピンたちが楽しそうに一人の女性徒を囲んだ。


「・・・何かしら!」

ジェームスの声につっけんどんな声で返したのはリリー・エバンズ。
彼女もグリフィンドールの生徒で、豊かで美しい赤い髪が、とてもきれいな女性だった。
彼らは仲が良いのか悪いのか、笑ったり怒ったりしながら談笑している。


ふと気づくと、彼が彼らのやり取りをじっと見つめていた。
見たこともないような悲しい顔だった。


「・・・・セブルス?」


はっとしたようにこちらを見て、彼はすぐにうつむいてしまった。

私と彼の横を、ジェームスとエバンズが笑いながら通り過ぎていく。

だがふと気づいたように、エバンズがこちらを見て「またね、セブルス」と手を振った。
すぐにジェームスが「またねスベニルズ」とエバンズの声の調子をマネてからかい、
リリーにたしなめられる。

通り過ぎていく二人の姿を目で追いながら、彼はぼんやりとそこに佇んでいた。

ああそうか、と初めて気がついた。

長く側にいたのに、自分の事に精一杯でまるで気づきもしなかった。

彼はエバンズが好きなのだ。

でも。

彼の困る顔が頭に浮かんだけれど、私はそっと彼のローブの裾をつかんだ。

「・・・私、あなたが好き」

遠く遠く豆粒のようになった二人の姿を追っていた深い深い湖の底のような黒いの目が、
驚いた様に私を見た。

「もう、寮に戻りましょう」

すっと裾を離して、私は彼を置き去りにして歩き出した。

まともに顔が見れなかった。

言うつもりなんかなかったのに。


ほんの少しの後悔と、彼の驚いた顔をみたときの高揚感がふわふわと私を取り巻いていた。

誰に悪戯されたのか、すれ違った赤い水玉模様の猫が、にゃぁ〜と甲高い声を上げた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ