頂き物
□予感
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与えられた部屋を出ると、目の前に小ぢんまりとした風流な庭がある。
マガナミは、やることがなければ縁側に腰を下ろし、一日中その庭を眺めていた。
辺りに、時を弛ませるような軽音が響く。
何といったっけ、あれはそう…
添水(そうず)というのだと、少し前に、この家の少年、シカマルに教えられた。
中央付近に支点を設け、片側を斜めに切ったシーソー状の竹筒が一つある。
切られた竹の空洞に、一段高い位置から水が注がれ、
水がいっぱいになるとその重みで竹筒が傾く。
すると中の水は池の中に零れ落ち、空になった竹筒は元の傾きに戻る。
その勢いで竹筒が石を叩き、小気味よい音が辺りに響く。
「そいつぁ元々、田畑に被害を与える獣なんかを追い払うために作られた装置なんだ。
別名、鹿威し(ししおどし)っつってな、どっちかってぇとこの名前の方が知られてる。
うちはこの辺りの鹿を統べる一族でよぉ。
ホントはあんまり縁起のいいもんじゃねぇんだが、親父がどうしても庭に欲しかったらしくてな」
半分は呆れた、半分はどうでもいいという感じの表情を浮かべて、ため息を吐いた。
「まぁそういう用途に使われてたのも、もう昔の話だ。
今は専ら風流な設置具として、こうやって庭先なんかに置かれてる。
道具も、時代によって役割や価値が変わってくもんだ」
あんまボーッとしてて、風邪引くなよ、と言い残して、シカマルは渡り廊下の角に姿を消した。
──道具も、時代によって役割や価値が変わってくもんだ。
シカマルの言葉が頭に残る。
──人も…その役割や価値が変わっていくものだろうか…?
──私も…変わることが出来るのだろうか…?
マガナミは、鹿威しの奏でる音に、静かに耳を澄ませた。