頂き物

□脳裏に蘇る一場面
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そう思って周りを見渡すと、その景色はなんだか新鮮に見えた。

輪郭が浮き出して見え、どこか浮世離れしているようにも映る。

不思議な気分だった。










その後交わす会話は普段と変わらない。

中身のないくだらない会話だ。

しかし、三人とも感じていた。

何かが違うと。







それは夏祭りの帰り道に少し似ている。

冷めきらない高揚感と、近づいてくる終わりの予感。

胸の底を這うような寂しさ。

家に帰れば、お祭りはお終い。

家に帰るまでの全ての風景は、祭りの余韻を宿しているかのように躍動的だ。

見慣れたはずの景色が、全く違うものに映る。

それがより一層、これで最後なのだという事実を強調する。

だからそれに気づかないふりをしてめいっぱいはしゃぐのだ。










「…ぃ、おい」

「え?」

「何ボーっとしてんだってばよ、キバ」

「おう、わりぃ。何だっけ?」

「卒業旅行だよ。思い切って海外行っちまうかって話」

「おっいいねぇ!ラスベガスとか行こうぜ!」

「ラスベガスってお前…せめてハワイとかグアムとか言えよ」










そうやって、行きつ戻りつしながら取りとめのない会話は進んでゆく。










多分、今日交わした会話の内容など、明日にでも忘れてしまうのだろう。

今日にしても、ちょっとしたトラブルはあったものの、取り立てるほどのことはないごく普通の一日だった。

けれど、キバは感じていた。

今日三人で自転車を引きずりながら帰ったことを自分は生涯忘れないだろう、と。

大通りのヘッドライトの光。

初めて見つけた小さな地蔵。

今のこの、少し現実から浮いたような不思議な感情。

これらはきっと、ふとしたタイミングに脳裏に蘇る一場面になる。

数年後、今日を思い出して懐かしさに浸る自分を予感していた。










「なあ、キバってば!」

「あん?」

「お前、さっきから心ここにあらずって感じだな。何考えてんだ?」

「きっといやらしいこと考えてんだってばよ」

「バーカ!」

キバは笑って二人との会話に戻っていった。










キバが今考えていたことを二人に話すことはない。



そして、ナルトとシカマルが他の二人に、キバと同様の予感を覚えたことを話すこともまた、ない。
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