ボンゴレ教訓
―沢田綱吉の教訓―
夕方。
俺は学校から帰る途中だった。
赤く染まる街をぶらりぶらり歩く。
すると突然携帯が鳴った。
確認するとアイツからのメールだった。
「何だよ、いきなり…」
どうせ大した事じゃないだろ。
そう思ってメールを確認すると、そこにあったのは俺の予想より遥かに短い言葉だった。
『助けて』
たった三文字の文章。
それを見た途端、嫌な予感がした。
急いで走り出す。
走りながら何度もメールを見直すけど、そこには場所も、理由も、何も書かれていない。
「どこだよ…!」
息が切れる。
アイツは商店街にも学校にもいない。
「くそっ!」
俺はヤケになって叫んだ。
どこだよ、どこにいるんだ。
その時、ピーンと閃いた。
そうだ、公園だ。公園にいるに違いない。
何でそう思ったかは分からないけど、アイツは今公園にいるような気がした。
今ならこの面倒な超直感とやらも、ありがたい。
俺は公園目指して一気に走った。
×××
「ハァ…ハァ」
一気に走って公園に着いたものの、そこには人っ子一人いやしない。
間違えたか…?
いや、ここであってる筈だ。
落ち着いて呼吸を整える。
辺りを見渡すと、居た。
ベンチに項垂れるようにしてアイツが座っていた。
「…おいっ、どうしたんだよ!」
近づいて叫んだ。
「ツナ…?」
アイツは閉じていた目をゆっくり開いて俺を見る。
その様子を見て、さらに俺の考えは悪い方へ転がっていく。
もしかしてマフィアとかに襲われたんじゃないだろうか。
鼓動が速くなっていく。
「どうしたんだ!?」
「足が…」
そう言ってアイツは自分の足に視線を移した。
足が何だよ…?
まさか事故とかじゃないよな…?
するとアイツは潤んだ目で俺を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「痺れた…」
「は?」
俺はただマヌケな声を出すしかなかった。
…足が痺れた?
え、待って。意味分かんないんですけど。
「京子の家で正座大会してたら痺れちゃった☆」
「……」
え、じゃあちょっと待て。
ってことはあの『助けて』ってメールは『足が痺れたから助けて』って意味だったのか?
…うっわ、やべぇ、今めっちゃ損した気分なんだけど。
「…お前のメール紛らわしいんだよ」
「あれ?もしかして焦った?焦っちゃった?」
「うわー、まじウぜぇ」
アイツはケラケラ笑った。
何だよ、メチャクチャ元気そうじゃん。
しかも正座大会ってなんだよ。何競うんだよ。
俺はクルッと背を向けて公園を出ようとした。
「…用が無いんなら俺帰る」
「ちょ、ちょっと待つでござる!」
「何だよ。っつーか何キャラだよ」
「…非常に申し上げにくいんですけど、いや実はそこまで申し上げにくくない気がするけど、でも申し上げ「申し上げるのか申し上げないのかどっちかにしろよ」申し上げます!」
「何だよ」
「家までおんぶしてくれないかなー、なんて」
「却下」
「即答!?酷いわ!この美しい腹黒サイヤ人!」
「褒めてるの?貶してるの?」
「頭からボーッって炎出したらツナ飛べるじゃん。背中に乗せて帰ってよー」
「俺は飛行機じゃありません」
「えー、ケチー!この変態マヨネーズ!」
「例えが意味わかんないんだけど。何?変態マヨネーズって」
「一応貶したつもりだったんだけど」
「あ、貶すことにしたんだ」
アイツは頬っぺたを膨らませて俺を見た。
そんな顔するなよ。
…仕方ないな。
俺は溜め息を吐き、アイツに背中を向けてしゃがんだ。
「ホラ、乗れ」
「いいの?」
「どうせ放って帰ってもお前ここに居座り続けるだろ」
「ご名答。とりゃっ!」
「ぐえっ!」
「わ、ツナから変な声出た。」
「お前が飛びついて首絞めるからだろうが」
「やっちまったぜ☆」
「落とすよ?落としていいよね?」
「わぁぁあー!止めて、止めて!!」
暴れるアイツを抑えてから俺はふぅ、と溜め息を吐いた。
死ぬ気丸を飲んでハイパー化する。
それから一気に空へ飛び出した。
「しっかり掴まってろよ」
「わー!凄い!!高いー!!」
「…聞いてんのかよ」
俺はキャッキャッとはしゃぐアイツを落ちないようにしっかり支えた。
軽いな、コイツ。
そんなことを思いながら空を飛ぶ。
どんどん小さくなって変わって行く景色が俺達の足元で見えた。
でもコイツが無事で良かった…。
気づかれないように、俺はそっと溜め息をついた。
本気で心配したんだぞ、ばか。
マフィアに襲われたんじゃないか、とか。
事故にあったんじゃないか、とか。
死ぬほど心配して、公園でお前見つけたとき本気で安心したんだからな。
ずっとはしゃいでいるアイツを横目で見ながら心の中でそう呟いた。
こんなこと本人には絶対言えないけどな。
いつか、言えたらいいな。
俺は微笑んだ。
気がつくとアイツの腕はしっかり離れないように俺の首に回っていた。
その細さと白さに、コイツは女なんだと改めて思い知る。
「ツナ、ありがとね」
「…ああ」
アイツが耳元で呟く。
俺の目の前では半分沈みかけた赤い太陽が大きく胡座をかいていた。
まるであの夕焼けを目指して飛んでいるようで、あの赤に染まると何故だか切なくなる。
さっきまで騒いでいたアイツも夕焼けに魅入っているのか、声一つ発しない。
今なら、言えるだろうか。
俺がどれだけお前のことを大事に想ってきたか、言えるだろうか。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「…俺、本気で心p「いやー、ぶっちゃけさ、歩くのが面倒だったんだよね」…は?」
やべぇ、このパターンさっきもあった気がする。
あれ、デジャヴ?
「ホントは家まで歩くの面倒でさ、試しにツナにメールしたんだけどね」
「……」
「いやー、まさか本当に連れて帰ってもらえるとは…ラッキーだったね☆」
「…よし、落とす」
「あれ、ツナさん?え、ちょっとマジで?え、うわわわ」
「堕ちろ、そして巡れェェエ!」
「うぎゃあぁぁああ!!!」
教訓一「怪しいメールには気をつけろ」
(ハイパー化って結構疲れるんだぞ!)